第478話

「そうなのですか。分かりました。純也さんは人を騙すような方ではないと信じておりますので、信じますね」


 俺はニコリと笑みを返す。

 そんな俺の顔を見た純也が、自身の心臓に手を置くと、ぎこちない笑顔を向けてきた。

 どうやら、多少は罪悪感があるようだ。

 純也と会話していたところで、チャイムが鳴る。

 どうやら、お昼時間が終わるようだ。


「私、教室に戻っていますね」

「――あ、俺も!」


 俺は、どんぶりの乗ったトレイを食器返却口へと返すと後から追って来た準やと一緒に教室に戻った。

 教室に入れば一斉に此方に向けらえてくるクラスメイト達の視線。

 純也と一緒に入って来たことで、その視線は意味あるように感じてしまうのは、俺の気のせいではないだろう。

 午後の授業が始まる。

そして、東大教授陣のサポートを受けた俺は、教師に当てられてもスラスラと答えていく。


「四条さん。すごいのね。あの数学の先生、難しい問題ばかり出すのに」

「そんなことありませんわ。たまたま偶然知っていただけですの」


 隣に座っていた女子生徒が、尊敬な眼差しで俺を見てくる。

 いつもは、俺のことをゴミでも見るような目で見てくる女子生徒が!

 東大教授陣サポートシステムはすごいな。

 午後の授業が終わり、都と共に昇降口へと向かう。


「凛子さん!」

「純也さん、どうかなさいましたか?」

「俺と一緒に帰りませんか?」


 ずいぶんとアクティブだな、こやつは――。


「今日は、ゆ――、凛子さんは、私と一緒に帰る事になっているから、純也は、また今度ね!」

「どうして、都が命令するんだよ」

「だって、私の方が先約だもの。順番は守るものよ?」

「――そ、それなら! 明日は、俺で?」

「ごめんなさい。純也さん」

「え?」

「お父様から、学校までの行き帰りは車でと厳命を受けていますの」

「そ、そうですか……」

「また、明日会いましょう」

「……は、はい!」


 随分と、アッサリと引き下がったな。

 まぁ、それならそれでいいが……。

 校門前で待っているリムジンに乗り込む。


「お嬢様。彼女は?」

「私の御学友の神楽坂さんよ? 彼女のご自宅までご一緒することになったの」

「分かりました」

「凛子さん、あの人は?」


 リムジンに乗って来た都がこっそりと聞いてくる。

 俺は、ボディーガードだと説明すると、面白そうな表情で、「へー」と、都が言葉を返してきた。

 都の自宅に到着し、


「それでは、少しの間、神楽坂さんの家に寄っていきますから、あとで連絡します」

「承知いたしました」


 ボディーガードへ説明したあと、リムジンから降りた俺は、都と共に神楽坂邸へと足を踏み入れた。

 神楽坂邸の邸宅の扉を開ければ、5人ほど並んでいるメイド達から、


「おかえりなさいませ。都お嬢様」


 と、いう声が聞こえてくる。

 いつもは、やらないというのに……。

 まぁ、初めて来る来客相手だからパフォーマンスみたいなモノなのだろう。

 そう考えると都の家も十分お嬢様の邸宅なんだよな。

 邸宅の広さと言えば、俺が購入した邸宅の倍はあるし。

 ただし、あすみが丘は田舎だから敷地面積は俺の邸宅の方が上だが。

 都に連れられて、彼女の部屋に入ったあとは――、都が着替えるのを待ちつつ、都の室内の本棚を物色していく。


「都」

「どうしたの?」

「お前、俺が部屋に居るのに、着替えていていいのか?」

「別にいいわよ。優斗なら、いつでもいいし」

「そ、そうか……」


 思わず溜息が出る。

 いくら、幼馴染と言っても、もう少し羞恥心というか、そういうのは持ってほしいものだ。

 それだと俺以外の人と結婚する時、苦労しそうだ。


「ねえ。優斗」

「どうした?」

「今日は、写真を手に入れる為だけに来たの?」

「そうだが?」

「泊っていけばいいのに……」

「ふむ……。だが、お前の親父さんが戻ってくるんだろう?」


 俺の言葉に、ピクリと体を震わせた都が、それはそれは、とてもいい笑顔を俺に向けてきた。


「優斗、お父さんから聞いたんだけど、胡桃ちゃんをうちで預かって欲しいような話をしたのは本当なの?」







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