第473話

「そ、そうですか……。一体、いつ食事を? 普通に、規定値の食事だけで力を取り戻したということですか?」


 ここは、俺が外食していると言ったら、さすがに神谷も嫌な気分になるかも知れないな。

 何せ、コックも雇って夕食を用意してくれていたわけだからな。


「そうだな」

「そ、そうでしたか……」

「まぁ、とりあえず、一ヵ月間は、桂木優斗の方は学校にテキトーに事情を説明して休むしかないな。その辺、文部科学省から学校の方へ話は通せるのか?」

「問題ありません。山城理事は、桂木警視監を嫌っていますから、一ヵ月どころか退学してもいいとまで思っていると思いますから」

「俺、そこまで嫌われるような事をしたか?」

「おそらくは山城綾子さんの件かと」

「ふむ」


 山城綾子ね。

 たしか山王高等学校の生徒会長だったはずだ。

 それ以外のことは、俺は干渉した記憶はないが……。


「桂木警視監?」

「――いや、何でもない」


おそらく欠落した記憶領域に含まれていたのだろう。そして、戦闘技能には関係ないから喰われたと見た方がいいな。


「あとは一ヵ月間、四条凛子として登校するから、その辺は任せた」

「お任せください」

「それじゃ、俺は帰るから何かあったら連絡を寄こしてくれ」

「あっ、お待ちください。こちらを――」

「警察手帳か?」

「はい。桂木優斗だと、話が通りにくい為、四条凛子で登録しておきました」

「まぁ、一ヵ月間なんてすぐだと思うが、もらっておく。それと、四条凛子で話は通るのか? あくまでも身分的だが」

「はい。そちらは、日本国政府、内閣府直轄特殊遊撃隊所属 四条凛子警視監となっておりますので問題ありません。警察組織内部でも遊撃隊は、諏訪市の危機を救ったと言う事で、全国的にですが秘密裏に情報が出回っていますので」

「それは狙われる可能性がありそうだな」

「桂木警視監でしたら狙われても問題なさそうですが……」

「まぁ、それはそうなんだがな」


 俺は肩を竦めて、部屋から出た。

 千葉県警察本部から出たあとはボディーガードに電話をする。

 すぐにリムジンが県警本部に入ってくる。


「お嬢様。お話の方は終わったのでしょうか?」

「ええ。それでは帰りましょうか」


 邸宅に帰宅したあとは、何事もなく一日が過ぎていった。




 ――そして、テストが開けた週の翌週の月曜日、一限目が始まって数分が経過したころ、俺は、住良木に案内され理事長室に到着していた。 


「桂木殿。ここが理事長室です」

「ええ。ありがとう」


返事をしたあと、理事長室の扉をノックする。


「入りたまえ」


 扉越しに声が聞こえてきた。

 

「失礼致します」


 扉を開けて中に入れば、笑みを浮かべた中年の男がソファーに座っていた。

 おそらく、ソファーに座っている男が山城綾子の父親、山城理事なのだろう。


「立っているのもアレだ。座りたまえ」


 ソファーを勧めてくる理事長に対して、笑みを浮かべる。


「四条凛子と言います。このたびは、私達、警察からの頼みを聞いて頂き、大変感謝しております」

「――い、いや。気にしなくていい。私にとっても桂木優斗君は、悩みの種でね。彼が、登校してこないなら、それは、それで問題ない。君のことは、文部科学省の方からもよろしくと聞いている。桂木優斗君の素行を監視するという名目で、君は派遣されてきたようだが、問題児がいないのだ。ゆっくりと学校生活を謳歌してくれたまえ」

「お心遣い、感謝いたしますわ。本当は、お父様に無理を言って、学校という学び舎を体験したく思っておりましたの。お父様から、お知り合いの警察関係の方に、無理を言って、ご迷惑かけたこと、お詫びいたします」

「気にしなくいい。あれは問題児だからな。四条さんは、幼少期から体が弱いと伺っている。何か困った事があったら遠慮なく相談してくれたまえ」

「ありがとうございます。その際には、宜しくお願い致します」


 それにしても、理事長の中での俺の扱いが酷いな。

 こりゃ、四条凛子が俺だっていう事がバレたら面倒な事、この上ない事になりそうだ。




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