第468話 神楽坂都side(5)

 ――燃え盛る炎に包まれた城内に、私は一人立っていた。


「ここは……、いつも見る夢じゃないのね」


 そう一人呟きながらも、私は、自分が夢の中に居ると言う事に気が付いていた。

 何故なら、炎が近くのタスペリーを燃やしているというのに、暑さをまるで感じないから。

 そして――、私は、視線を動かした。

 視線の先には、白い髪に赤い目をした20代後半の男性が、雷を宿す剣を携えて、こちらを伺っていた。


「――、お前は……」


 怨嗟を含んだ、狂気に彩られた眼で、真っ直ぐに男性は私を見てきていた。


「――、ごめんなさい。私が召喚したから……。でも、私は――、ホントに、貴方を……」


 自然と、自分ではない自分の声が、口から漏れた。

 そんな私の声を聞いた男性が目を大きく見開くと口を開いた。


「お前のせいだ! 都が――」


 その瞳は、怒りで正気を失っていた。

 少なくとも私には、そう思えた。

 瞬く間もなく、一瞬で目の前に瞬間移動したかのように距離を詰めた男性は――、雷を纏った剣を私に振り下ろした。

 その時、私は見てしまった。

 炎に照らされたのは、大人になっていたけど、それは間違いなく――、桂木優斗だった。




「はぁ……はぁ……はぁ……」


 唐突の目を覚ました。

 

「ゆ……め……なのよね?」


 あまりにも生々しい夢。

 いつもは優斗が一人、絶望に打ちひしがれて、小さな子供のように泣いている夢ばかりを見ていたから、まったく違う夢に驚いてしまった。


「なんで、あんな夢を……」


 たぶん、お父さんが優斗を化け物とか大量殺人者とか言ったから、その影響からなのかも知れない。

 そう結論づけた。

 だって、優斗が、私に向かって剣を振り下ろすような事をする訳がないから。

 それに……、あんなに憎悪と憎しみの対象としてドレスを着ていた私に向かって怨嗟の言葉をかけてくるなんて考えられないから。

 だから、きっと夢に違いない。


「――でも……。ううん。優斗に限って、そんなことするわけないもの」


 ――コンコン。


「はい」

「おはよう。都」

「お母さん……」


 お母さんは、静かに私のベッドに座ると指を伸ばしてくる。


「泣いていたの? 何か、嫌な夢でも見たの?」

「ううん。何でもないの」

「そう。無理はしたら駄目よ? それと修二さんから話は聞いたわよ?」

「お父さんから?」


 お母さんが、困った表情で――、


「修二さんは、都のことを思って言ってくれたのでなくて?」

「お母さんは、お父さんの肩を持つんですか?」

「そうではないの。でも、お父さんの気持ちも分かって欲しいわ。あの人は、都の事が大事なの。だから――」

「お母さん。お父さんは、優斗のことを化け物とか殺人者呼ばわりしました。私は、そんな言葉を使ったお父さんを許しません」

「仕方ないわね」

「仕方なくありません。お母さんだって、優斗のことを知っていますよね?」

「知っているわよ? でも、貴女のことを思うと心配になるの」

「それで、お父さんの肩を持つのですか?」

「そういう訳ではないのよ? ただ、修二さんも貴女を大事に思っていて、それで度が過ぎた言葉を使ってしまったということを理解してほしいの」

「理解しませんし、理解できません。私の優斗を侮辱した時点で、お父さんは私の敵ですから」


 私の言葉に、お母さんは説得が出来ないと感じ取ったのか、


「とりあえず朝食にしましょう。ご飯を食べながら、今後のことでも――」

「分かりました。――でも! 私は、絶対に折れるような事はありません」


 だって、ここで折れてしまったら優斗の手を離してしまったら駄目だって、私の心が言っているから。

 だから、両親に嫌われても、私は優斗の味方でいるから。

 そう、決めているから。

 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る