第467話 神楽坂都side(4)

「人殺しの化物って……、さっきお父さんを助けてくれたって言ったわよね!」

「言ったが、それでも桂木優斗という化け物の思考回路は理解できない。彼は、不必要な虐殺を行った」

「不必要?」

「そうだ。彼は、化け物を操っていた教団の教祖の両手両足を逃亡防止という理由の為だけで斬り落とした。しかも自殺できないようと舌まで斬り落としたのだ。しかも躊躇なく――。さらには教団の施設内部には無数の人間の遺体が原型を留めずに転がっていた。それが何を意味するのか理解できるか?」

「でも優斗は、お父さんを助けてくれたのよね? その教団が化け物を使って、お父さんを殺そうとしていたのなら、助ける為に、教団の人達と戦うのは仕方ないんじゃないの?」

「都。君は何も分かっていない。桂木優斗という化け物は、相手を無力化する事が出来る力があるにも関わらず数えきれないほどの殺人を犯したのだ。それが、どれだけ罪深いことか分かるか? 力が拮抗しているのなら仕方ない。だが、彼は、圧倒的なまでの暴力で、皆殺しにしたのだ。日本は法治国家だ。犯した罪は、警察で立証し裁判に掛けられるべきだ。そのくらいは都も分かるだろう?」

「分かりません」


 私は、頭を左右に振る。


「お父さんは、安全な立場から優斗を批難しているだけです」

「何!?」

「優斗が助けなかったら、お父さんは死んでいたんですよ? それを理解していますか?」

「だから、助け方にも――」

「お父さん。自分の身も自分で守れない人間が、他人に助けてもらったのに、それに対して文句を言うなんて虫が良いにも程がありませんか?」

「私は、彼の――、桂木優斗の精神性の在り方について、お前に伝えているんだぞ!」

「だから何ですか? 自分は助けてもらっていて、手を汚した優斗の事に関しては化け物呼ばわりですか?」


 何だろう。

 目の前に居る人は、何なのだろう。

 他人に助けてもらっていて、他人のやりかたに文句を言うなんて、どういう思考をしていればそうなるのだろう。

 疑問しか浮かんで来ないし、理解も出来ない。


「お父さん。お父さんは、自分自身を自分の手で守れない事に対して怒っていて、優斗のせいにしていませんか?」

「なっ――!?」


 私の言葉に顔を真っ赤に染めるお父さん。


「だから、私は、彼の在り方について――」

「助けられた人間が、助けた方法について文句を言うなんてお門違いも甚だしいと思います。お父さんは、優斗を理解できないから助けられた事に関して、一切感謝も出来てないと思います。お父さんは、優斗に助けてもらってお礼を言いましたか?」

「――そ、それは……」

「お父さん。優斗に関しては、私は一切、お父さんの命令を聞くつもりはないです。優斗は、私が守ってあげないといけないから」

「何を言って……」

「お父さんは、優斗の事を何も理解してないです。優斗が強い? 優斗が化け物? お父さんは、優斗を本当に見ていますか?」


 本当にイライラする。

 誰も彼も優斗を知らないのに、優斗を化け物扱いすることに。

 何より優斗の為に、何も出来てない私自身に一番腹が立つ。


「これ以上、話がなければ私は部屋に戻ります」

「都!」

「それ以上、優斗を侮辱するようでしたら、私は家を出ていきます」

「なん……」

「失礼します」


 私は、書斎を出ると自分の部屋へと戻った。

 

 



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