第466話 神楽坂都side(3)
「優斗君は、妹の胡桃君を、神楽坂家で保護してくれるようと要請してきた」
「お父さん! 私は、お父さんの話を聞いていたわ! 同じことを言わなくても分かるから!」
「そうか。――なら」
「そうじゃなくて! どうして優斗が、お父さんに直接、そんなことを頼んできたの!?」
「彼も忙しい身なのだろう? 警視監という立場上、胡桃君の身のことも考えて、後見人である私に、妹の胡桃君のことを頼んでくる事は当然だと思うが?」
「それなら優斗は、どうするの?」
「彼は、一人で問題ないとのことだ」
お父さんの、一言――、それを聞いた瞬間、目の前のこの人は何を言っているの? と、自問自答してしまう。
「本当に、優斗が、そんなことを言ったの?」
「ああ。たしかだ」
「それで、お父さんは、それを許可したの?」
「だから、説明している」
「それじゃ、優斗は一人で暮らしたいって言っているの?」
そんなのは絶対に駄目だ。
私は、何度も夢の中で見た。
優斗が、異世界から帰ってきたと――、千葉駅で倒れたあと、私に抱き着いてきたあの日以降に定期的に見ている悪夢。
優斗が、何かを抱きしめて雷雨の中で叫んでいる姿。
優斗の回りには赤いペンキのようなモノが地面には撒き散らされていて、それらが雨で洗い流されていく光景を。
優斗は――、優斗は……、絶対に1人にしたらいけない。
――優斗を一人にしたら駄目――。
そんな感情が――、気持ちが――、直感が――、全てが、私に語り掛けてくる。
守るモノを手放したら優斗が優斗じゃなくなっちゃう。
そんな思いが、胸中を満たしていく。
「ああ。そうだ。都、お前も神楽坂家の人間なのだから、分かるだろう?」
「……わかりません」
優斗の手は離したら、たぶん二度と会えなくなる。
それは、確定できてはないけど、私の何かが、そう告げている。
「はぁー」
折れない私に、お父さんは溜息をつくと、
「都。桂木優斗君に関して、都は、どれだけのことを知っているんだね?」
「それは――」
「これは、言いたくはなかった。桂木優斗君は、神の力を手に入れている」
「……」
「その表情からして知っているということか」
「都。私が、彼からの提案を受け入れた理由は二つある。一つは神の力を手に入れたことで人間性を欠如したこと。そして、もう一つは人殺しを躊躇いもなく行うことが出来る殺人者を有しているという点だ」
「優斗は、そんなんじゃ――」
「良いから聞きなさい。たしかに、お父さんも桂木優斗君から、神の力を手に入れたと――、妹の胡桃君を、神楽坂家で養育して欲しいと頼まれた時には、返答に詰まった。(何故なら、彼の様子があまりに自殺をした社員の前日に見た姿を重なって見えたからな。だが、これを娘に伝える必要はない)」
「返答に詰まった?」
「ああ。だが、いまは、それが結果的にいい事だったと思っている。都は、私が長野県諏訪市に出張に行っていたことは知っているな?」
「はい」
「私は、そこで化け物に殺されそうになった」
「え?」
「その時に、助けてくれたのが桂木優斗君だった。だが、彼は目の前で容疑者の体を涼しい顔をしたまま切り刻んでいたのだ」
「容疑者って……、化け物?」
「違う。まだニュースにはなっていないが教団のトップだったらしい。そんな人間を逃亡防止の為だけに両手両足を眉一つ動かさずに素手で斬り落とした。私は、それを見た時に思ったのだ。桂木優斗君は、神の力を手に入れたことで化け物に成り果ててしまったのだと。だから、胡桃君の身柄の安全を含めて、胡桃君は神楽坂家で引き取ろうと思ったのだ。人殺しの化物と胡桃君を一緒にしておくわけにいかないからな」
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