第465話 神楽坂都side(2)

 どんな風に、優斗の家に来たのか分からない。

 気が付いたら優斗の家のドアの前に立っていた。

 インターホンを鳴らす。

 すぐにドアが開く。


「どうしたのだ? 都」

「白亜さん。優斗は?」

「ご主人様なら、仕事が立て込んでおっての。しばらくは戻らないぞ?」

「本当に?」

「うむ。本当じゃ」

「……ねえ! どうして、優斗は――」


 そこまで言いかけたところで私は口を噤んでしまう。

 どうして、優斗は私に何の相談もなく教室に来ないの? と――。

 何時もなら、何かあったら来てくれるのに……。


「ねえ。優斗、変な事に巻き込まれていないよね?」

「ご主人様が?」

「そう!」

「要らぬ考えだと思うぞ? そもそもご主人様に害を為せる存在なぞ、この世界において最高神クラスでも不可能であるからの」

「そうなの?」

「うむ。すでに肉体を失い現世の世界での物理的干渉力を失った神々が、人にそもそも仇なすこと自体、無理ではあるが……」

「……なら、優斗は、本当に何でもないの?」

「うむ。だから安心するとよい」

「それなら、優斗に電話するように伝えて!」

「分かった。ご主人様には、伝えておくとする」

「お願い」

「任せておくのじゃ」


 よく分からない……、よく分からないけど……、白亜さんは何かを隠している気がする。

 白亜さんは何も問題ないとは言っていたけど、直感が優斗に何かあったと言っている。

 自宅に戻ったあと、お風呂に入り着替えたところで――、

 

 ――コンコン


「はい」

「都お嬢様、旦那様がお戻りになりました」

「お父さんが?」


 長野に出張で出かけていて一週間近く家を留守にしていたけど……、もっと時間が掛かるっていっていたのに?

 玄関に到着すると、疲れた表情のお父さんがいて――、


「おかえりなさい」

「ああ、ただいま。それよりも後で話があるから、夕食の後に書斎まで来なさい」

「え?」


 改めて場所を変えて話そうと言うお父さんに私は違和感を覚えた。

 夕食の時間は、取り留めもない話が食卓で交わされる。

 主な話は、校舎が変わった私の学校での生活の内容に言及されていた。

 夕食が終わったあと、お父さんとの約束通り、私は書斎に向かう。

 書斎前に到着したところで書斎のドアをノックする。


「都です」

「入りなさい」

「失礼します」


 よく分からない。

 だけど、とても固い口調で室内から掛けられてきた言葉に私は緊張した。


「お父さん。それで話ってなんですか?」

「……」


 私の問いかけに、お父さんは沈黙したまま。

 その様子から、言葉を選んでいるのがありありと伝わってくる。


「都。桂木優斗君について、どう思う?」

「え? どう思うって……、優斗は優斗だと思います」


 私の問いかけが違っていたのか、お父さんは眉間を人差し指で書きながら視線を私から逸らすと口を開く。


「都。今まで、お前の友人関係について、私は口を出すような真似はしてこなかった」

「はい」

「それは理解してくれるな?」

「はい」


 お父さんは、何を言いたいの?


「お前は、由緒正しい神楽坂グループの一人娘だ。ゆくゆくは、家の格が同じ人間と結婚すると言う事も分かっているな?」

「……」


 それって……、優斗じゃ不釣り合いってことを遠回しに指摘して来ているってことだよね?

 どうして、いきなりそんなことを?


「お父さん。何を言っているの? 私は、優斗と――」

「都、良く聞きなさい。桂木優斗君は、妹さんを神楽坂家で面倒見て欲しいと打診してきた」

「――え?」


 何を言っているの?

 

 


  


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