第458話 第三者side
首相官邸の一室――。
「以上が、現状の桂木優斗に関する情報となります」
「ふむ……。かなり詳細に纏められているな。やはり君を、桂木優斗の傍につけて正解だったよ」
「お褒めに頂き――」
「そう堅苦しい挨拶はいい。それよりも、能力を見れば見る程、人からは逸脱した力を有しているというのが分かるな」
「はい。長官」
長官と呼ばれた60歳過ぎの男は、目の前に立っている警察官の制服を着た女性を一瞥したあと、渡された資料へと目を落す。
「ペンタゴンで調査した内容から推察するに、桂木優斗は一人で世界全ての軍事力を相手にしても勝てるそうだ」
「それは……」
「すでに、中国軍は、陸軍以外は壊滅状態だ。復興には20年以上の時間がかかると、各国の首脳陣は見解を出している。その事から見ても、桂木優斗の戦闘力は、日本政府がコントロールする必要がある。だからこそ、君に命令を下したと言う事を理解はしているね?」
「はい。現状、桂木優斗は、かなり弱体化しており、戦闘を行える状態ではありません」
「そう。だからこそ、力を取り戻す為の行動を阻害しなくてはいけないのだ」
「ですが、桂木優斗が既に日本の国防の一端を担っているという現状も――」
「一端? 神谷警視長。君は何も理解していない。現在、日本はロシアからの領空・領海侵犯を受けていないどころか、ロシアからは秘密裏に北方領土と樺太の返還、韓国からは竹島の返還の話が来ている」
「まさか?」
「そのまさかだ。彼の力を恐れた国々が軍事同盟を日本国政府に持ちかけてきているのだよ。もちろん、その中には中国人民共和国も含まれている」
「そんなことになっていたのですか……」
「ああ。今現在、中央大陸ではウクライナがロシアからの侵略を受けているが、ウクライナからは、桂木優斗を義勇軍の一人として――、人道的な側面から送って欲しいと依頼まで来ている始末だ」
その長官の言葉にゴクリと唾を呑み込む神谷警視長。
「ウクライナからの協力要請を日本国政府が受け入れた場合には……」
「間違いなくロシア本国は壊滅するだろう。そのことをロシア大統領も理解しているからこそ、日本との軍事同盟を示唆してきている」
「面倒なことになっていますね」
「ああ。頭の痛くなる課題ばかりだ。だが、夏目総理は、しばらくは中立の立場を貫き通す考えのようだ」
「そうなのですか?」
「うむ。まあ、詳しい話は、君には出来ないが、しばらくの間は、桂木優斗が力を取り戻すような行動を取ろうとした場合、阻止して欲しい」
「それは分かっていますが、ただ一つ――」
「奇跡の病院の件についてか?」
「はい」
「その事に関しては、化学班の方からの回答として一般人と同程度の食糧を摂取させておけば問題ないとの回答が来ている」
「……では、しばらくは女性として過ごしてもらうと?」
「そのために、国は、桂木優斗の女性としての戸籍を用意したし、陰陽庁の買い取りと運営の許可も出したのだよ?」
「つまり、桂木優斗に首輪をつけた上で飼いならせと?」
「ああ。彼――、いや今は彼女だったか? 彼女の力を御しつつ日本国の国防と経済維持、交渉カードとして利用する事が、日本国政府が決めた最優先課題だ」
「桂木優斗が、それで納得するのかどうか……」
「気付かれずに上手くやりたまえ。そのために、君を送り込んだのだろう? 公安部の暗部情報担当官 神谷 幸奈君」
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