第453話

 目が覚めたら、すでに日はとっくに落ちていた。

 体は、普通に動かせるようになってはいたが、瞼を開けた当初から、俺の視線の先には、保健室の椅子に座った純也の姿が!

 何故に、こやつは、保健室にいるのだろうか?

 むしろ何で保健室にいるのか?

 そして、どうして俺の方をジッと観察するように見てきているのか?

 ツッコミどころは満載だ!

 もしや……、俺の正体がバレたとか!?

 まぁ、一応は幼馴染だからな。

 雰囲気から、俺だということを感じ取ってもおかしくはない。

 白亜や、エリカだって、俺を一目で看過できたわけだしな。

 さらに言えば、純也も一応は霊能力を持っている。

 そこから考えれば、論理的に見ても、俺だと言う事は分かったはず!

 そうなれば、あとは、どう言い訳をするかだ!

 とりあえず、純也の思考を誘導し、上手く俺だということを見破っているのかを確認するだけ。

 俺の脳裏シミュレーターは、この状況を高速で計算し現状打破の為の最善の一手を導きだす。


「おはようございます」


 とりあえずは挨拶から、軽くジャブを飛ばしておくとしよう。

 あとは純也が、どう出るかで此方も出方を考えねば――。


「体は大丈夫ですか? 凛子さん」

「――え?」

「凛子さん?」

「あ……はい」


 そういえば、凛子って名前で自己紹介したんだった。

 完全に忘れていたな。


「もう体の方は大丈夫ですか?」

「えっと……、大丈夫だと思います」

「そうですか……。もう立てますか?」

「ええ。大丈夫ですわ」


 会話をしている間も、俺の方をジッと注意深く観察してくる純也の瞳。

 どう見ても、俺の正体を分かっているとしか思えない。


「あの……、純也さんは、何時から、こちらに?」

「放課後のホームルームが終わったあと、すぐに来ました!」

「え? あ、はい……」


 何で、そんなに食いつき気味に答えてくるのか。

 ――というか寝ている間に保健室に入ってきて、俺の寝顔をずっと見てくるとか、普通の女子にやったらドン引きレベルだぞ? 純也のスペックは、顔やスタイル含めて高レベルだというのに、彼女が出来ない理由が何となく分かった気がする。


 親友の俺じゃなかったら普通に通報案件だからな?


「そういたしますと、純也さんは、私が寝ている時に保健室に来られたのですか?」


 念のために確認しておこう。


「大丈夫です。保険医の住良木さんには、許可はとっておきましたので」

「あ、そうですか……」


 アイツ! 何で許可を出しているんだよ! 見つけたら、東雲に言いつけてやろう。

 職務怠慢だということで。


「えっと、女性と同じ部屋に居ることを許可されるなんて、住良木先生とは、仲がいいのですか?」

「まぁ、一応は――」

「どのような繋がりで?」

「近所の姉というか、そんな感じです」

「まぁ! そうですの!」


 会話の内容からして、俺には一般人としての対応をするということは、俺の正体に気が付いていないということか。

 つまり、コイツは俺じゃないと思っている女が寝ている保健室に来て、俺が起きるまでずっと! 俺の寝顔を見ていたと……。


 ――普通に犯罪だな! マジで警察通報案件だぞ!

 とりあえず帰るとするか。

 これ以上、純也と一緒にいたら嫌な感じしかしないからな。


「私、そろそろ帰りますね」


 学校の正門の方へと視線を向ければ、神谷が手配したリムジンが停まっているのが見える。

 とりあえずは、さっさと逃げるとしよう。


「あ、じゃあ! 俺が、送りますよ」

「いえ。結構です」

「気にしなくていいですよ! こう見えても、俺は頼りになりますから」

「そうではなくて……、車が迎えにきていますので……」

「車?」


 そこで、ようやく純也の目線が校庭の先の校門前に停車している黒塗りのリムジンへと向けられた。


「凛子さんは、車で通学しているんですか?」


 ベッドから降りて来客用のスリッパを履きカバンを片手に歩き出そうとしたところで俺の腕を掴んできた純也が、問いかけてきた。


「えっと……、はい。私、幼少のみぎりから、体が弱くて……。それで、電車通学は出来なくて……」


 とりあえず車で帰るから、さっさと納得しろ! 俺の腕から手を離せ! と、言う意味合いを込めて遠回しに純也に伝える。


「なるほど! 分かりました!」


 理解してくれたかー。

 よし! さっさと帰るとしよう。

 一人でな!

 そう考え歩き出したところで、体を抱き上げられた。

 それは、まさしくお姫様抱っこ! 既視感がハンパねー。さっきもやられたな。


「車まで連れていきます。まだ、体が本調子ではないようなので」

「――いえ。大丈夫ですから降ろして頂けますか? それに、御学友の方に見られたら……、先生方にも……。純也さんが困るのではなくて?」

「気にしないでください。自分に好意を寄せてくれた女性に対して出来るだけのことをしたいだけなので」


 何と言う、このアホな発言を純也は軽々しく言ってしまうのか。

 それよりも、ちょっと出会ったばかりの女子に対してグイグイと来過ぎなのでは?

 とりあえず、こんな場面を神谷とかに見られたら黒歴史確定だ!

 離してもらう為に何とかせねば!


「あの……、純也さん」

「何でしょうか?」

「恥ずかしいので、お姫様だっこはちょっと……」

「気にしないでください」


 お前は人の話を聞いているのか! 俺が、恥ずかしいと言ったんだから、手を離せよ! 気にしないでくださいって! どういう話の文脈で言葉を返してきてるんだ!




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る