第451話

 保健室に到着したあとは、テストを受け――、数学と英語、漢文を終えたところで午前中が終わる。


「お疲れ様でした」


 答案を集めていく住良木。

 そして俺と言えば、力尽きたこともあり保健室のベッドで横になる。

 もう疲れた。

 マジで疲れた。

 あと残っているテストは、11教科。

 つまり、あと4日、テストの日が続くわけで……。

 一週間の間、この地獄が……。


「桂木殿」

「何でしょうか?」

「その口調で、ずっと行かれるのですか?」

「ええ、そうね。どこで誰か聞かれているのか分かりませんから」


 ベッドの上で横になったまま、答える。


「制服に皺が出来ると思いますが?」

「そこまでは気にしないわ。どうせ神谷が何とかしてくれると思うから」

「そうですか……。それと中国政府から、青島に関しての発表がありました」

「そうなの?」

「はい。青島で起きた水爆を超える爆発ですが、海底に溜まっていたメタンハイドレートの爆発が主な原因ということで、対外的に発表されました」

「そう……、おそらくだけど、日本政府内には中国のスパイがいると思うのだけれど、私が行った行動というのは、中国政府は理解しているのよね?」

「おそらくは――。その点も踏まえて自然災害と言う事にしたと思います」

「そうなのね」

「はい。一人の人間に、海軍は全滅、空軍は壊滅状態にされましたと発表できる国はありませんから、そんな事を発表した時点で日本は強力な戦略兵器を有していると一般階層にまで知らしめる要因になりますから……、そうなればウイグルやチベットが桂木殿に依頼してくる可能性があります」

「独立の為に力を貸して欲しいと?」

「はい。そうなれば中国は、大打撃を受ける事になります。桂木殿が出ていけば、敵対者は皆殺しですよね?」

「当然ね」

「そう言う点も踏まえて中国政府は、日本政府に対して日中安保条約を、先ほど秘密裏に求めてきたそうです。尖閣諸島の領有権に関しても中国は今後、一切、何も言わないとの条件のようです」

「そう……」


 まぁ、当然と言えば当然だろうな。

 軍隊を失った大国は、抑圧――、弾圧してきた諸外国や自国内の反乱分子が行動を起こして内部と外部から瓦解する。

 それを何とかしたいと思ったら、強力な軍事力を持つ国と同盟を組むしか手段がなくなるわけだ。


「それにしても、ずいぶんと中国政府は面の皮が厚いわね」

「それが中国という国かと。あと桂木殿、日本国政府から、しばらくは中国と敵対するような行為は控えて欲しいとのことです」

「わかりましたわ」

「あと他国からの軍事的依頼に関しても日本国政府を通して欲しいとのことです」

「それは確約致しかねますわ」

「一応、連絡はしておきました」

「分かりました。今日のテストは、これで終わりですので、一般の方が帰宅する前に、校舎を出た方がいいと思います」

「そうね。帰りのホームルームの時間の間に、帰宅した方が知り合いに会うリスクを減らせるものね」


 俺は、ゆっくりとベッドから降りる。

 一瞬、立ち眩みがする。

 極力、体を運用するエネルギーを抑えていたからだが……、まったく面倒な事、この上ないな。


「大丈夫ですか? 桂木殿」

「ええ。問題ないわ。力を蓄える為に、身体維持能力を落しているだけだから」

「そうですか。SPでも何人かつけますか?」

「必要ないわ」


 本当に、ヤバい時は、力を解放すればいいわけし……。

 まぁ、それでも通常時の力を発揮しただけで、10秒ほどで力が尽きると思うが……。


「それじゃ、明日も頼むわね」

「はい。任せてください」


 保健室から出たあと、俄かにざわつき始めた廊下を俺は歩く。

 カバンが重い。

 通常の女よりも身体能力を抑えている状況からなのか普通に歩いているだけでも息が上がってくる。

 とりあえず、それでも純也や都と会うようなリスクは避けないと。

 二人とも小さい頃からの付き合いだから、こんな姿でも身バレする可能性はありそうだからな。

 昇降口に到着したところで、立ち眩みが――、足がもつれて転びそうになり、床が目の前に……。

 あっ――、これ……、額に床を打ち付けるコースだな。

 そう思ったところで、カバンを持っていなかった左手を引かれる。

 その力は力強く――。


「大丈夫ですか? 具合でも?」

「えっと……、大丈夫です」

「表情が……すごく……」

「あの……」


 俺を引っ張って抱きしめてきたのは、峯山純也――、俺の親友であった。

 どうして、コイツがここに居るんだ!?




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