第449話

「――ッ」


 悲痛な表情を、住良木は見せるが、俺は彼女の考えに対して共感もしないし何も感じない。

 ただ一つ言える事と言えば――、どうでもいい。その一言に尽きる。


「分かりました……。桂木殿のお考えは――」

「そうか。それは良かった。――で、住良木が此処にきた要件は終わったと見ていいのか?」

「はい。それで――」

「日本政府には、別に話しても構わないぞ?」

「――ほ、本当にいいのですか?」

「ああ。虚偽を報告しても意味はないだろう? お互いにな――」

「……了解しました」

「それで奇跡の病院についてだが――」

「それに関しては、まだ厚生省と外務省が各国の調整に入っている状況です」

「なら、当分は問題ないな」


 そこで俺はソファーの上で横になる。

 正直、座っているだけでもしんどいからな。


「お兄ちゃん」

 

 話が一段落ついたのを待っていたかのように妹が、俺が寝ているソファーの隙間に座ると名前を呼んできた。


「どうした?」

「お兄ちゃん、その恰好でテスト受けにいくって言っていたけど、それって絶対に止めた方がいいの。目立つどころかSNSに上げられるから」

「つまり目立つってことか」

「うん。目立つどころか研究機関が殺到しそうなの」

「それはめんどいな」

「うん。だから、学校の誰かに手伝ってもらってテストを一人だけで受けるとかした方がいいの」

「……なるほど……」


 たしかに、その方がいいかも知れないな。

 だが、俺が知っている教師で、俺が女装している事を知っている奴は……。


「住良木しかいないな」

「――え?」


 疲れ果てた様子の住良木に任せるとしよう。


「住良木。学校のテストを受けたいから何とかしろ」

「そんな無理難題を……」

「お前なら、学校側に働きかけられる立場にいる奴が上司にいるんだから何とかなるだろ」

「ま、まさか……」

「東雲にやらせろ」

「……それって、お願いではなくて――」

「命令だ。お前の所の仕事を引き受けてやったから、こういう事になっているんだから責任を取れ」

「掛け合ってみます……」

「早くしろよ。テストは、今日だからな」


 住良木が諦めた表情で電話をかけ始める。


「でも、お兄ちゃん」

「どうした?」

「男物の制服しかお兄ちゃんは持ってないよね? どうするの? お兄ちゃんのスタイルだと、私の制服とか着られないし、下着も無理だよね。制服じゃない服だと逆に目立つし……」

「マスター。この際、転校生ということにしてみては?」

「転校生か……。それって、すぐにできるものなのか?」

「文部科学省から教育委員会から圧力をかければ何とかなる」

「ふむ……」


 携帯電話を取り出し、神谷へと電話をかける。


「はい。神谷です」

「俺だ、俺――」

「えっと、どなたですか?」

「桂木優斗だ」

「えっと……桂木優斗って……え? あの……、桂木優斗さんのお知り合いの方ですか?」

「そうじゃなくて――」


 まったく説明がめんどくさいな。

 一通り、俺は神谷に説明していく。


「なるほど。連絡は長野県警から入っていましたけど、本当に女性になっているのですね。それで、学校のテストを受ける為に、帰国子女として登校してテストを受けたいと言う事ですか」

「まぁ、そんな感じだ」

「あの、それって普通に無理だと思います。帰国子女でしたら入学テストが必要になってきますよね? 今の桂木警視監の学力では入学テストの合格率は0%だと思います」

「ハッキリ言ってくれるな」

「現実ですので。それよりも、元々、山王高等学校の生徒だったと言う事にした方がいいと思います。それでしたらテストを受けることは容易ですし、一ヵ月間、高校に通うこともできますから」

「そんな事が出来るのか?」

「はい。日本国政府、内閣府直轄特殊遊撃隊には超法規的措置がありますから、戸籍の偽造や学歴の偽造など許可が下りています。その権利を行使すれば女子生徒として一ヵ月間、勉学に励むこともできるかと」

「なるほど……。なら、それでやってくれ」

「分かりました。えっと、いまの時間は午前7時半……。テストは9時半からですか……。時間的にはギリギリですね」

「金はいくらかかってもいい」

「すぐに用意します。桂木警視監は、普段着のまま、外に出て待っていてください」


 電話を切る。


「神谷が全部用意してくれることになった。住良木の方は、どうだ?」

「一応、保健室でテストを一人で受ける許可はとりました」

「重畳だな」

「あの、桂木殿」

「どうした?」

「東雲殿が、呆れていました」

「どんな風にだ?」

「テストごときに、そこまで気合を入れるのかと……」

「気合も何も都が俺に勉強を教えてくれた結果を示さないといけないからな。その為のテストを受けることに対して、『ごとき』と言われるのは心外だな」





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