第448話

「何かご存知で?」

「――いや、何も知らないな。そもそも、本日未明って何時の事だ?」

「本日、明朝、午前6時24分とのことです」

「ふむ……。寝ていたな」

「そうですか……。つまり桂木殿は、関与はされていないと……」


 その言葉に、俺は溜息をつく。

 つまり、住良木は俺が何かしらの報復を中国に行ったと思っていたと。

 

「住良木」

「はい」

「さっき、各国の上層部に話が回ってきたと聞いたが、それは神社庁に直接って事じゃないんだよな? 日本国政府から情報が降りて来たと捉えた方がいいんだよな?」

「そのとおりです。内閣府は、桂木優斗殿の会話の内容からして、諏訪市で使われる予定だった中性子爆弾を爆発を食い止めた後に、報復として中国人民共和国の青島で中性子爆弾を爆発させたのでは? と、考えたようです」

「ほう……」

「――ですが、中性子爆弾の威力が桁外れに大きかったこともあり、内閣でも、半信半疑と言った様子で――」

「つまり、諏訪市で爆発する予定だった中性子爆弾の威力。その想定していた威力よりも遥かに強力な爆発が中国本土で起きたから、俺が原因かどうかの判断が付いていないと言う事か?」

「はい、そうなります。ですので、桂木優斗殿と面識のある神社庁の人間に白羽の矢が立ちました」

「俺のアリバイの確認という理由でか?」

「そうなります。あとは、官房長官が首が何度も飛ばされた事に対して恐怖もあって内閣からは人は出したくないというか、公安も人を送れなかったようです」

「ふむ……。ちなみに被害状況は?」


 住良木が、カバンの中からノートパソコンを取り出すと、起動させて画面を俺に見せてくる。

 

「衛星写真か?」

「はい。この入り江ですが――、爆発前の写真を見て頂くと分かりますが、膠州湾(こうしゅうわん)は、本来ですと直径20キロ程度の円状を有している湾内でした。それが、次の写真――、爆発後ですが、膠州湾の形が綺麗に円状に拡大されているのが分かると思います。恐らく威力としては、広島型原爆の5千倍近い威力を持っていたと考えられています」

「ほう……。そうなると……」

「はい。正直、旧ソ連が1960年代に開発した水爆を遥かに凌駕する威力です。そのため、桂木優斗殿が関与しているのでは? と、考える閣僚もいるようで……。それで念のために私が来たわけです」

「なるほどな……」

「ですが、安心しました。桂木優斗殿が、自宅に居たと言う事でしたので」

「いや、別に安心する必要はないぞ?」


 俺は首を鳴らしながら――、


「――え?」

「その爆弾を作ったのは俺だからな」

「……じ、冗談ですよね?」

「俺が、冗談で、こういう事を言うと思うのか?」

「…………で、ですが……、桂木殿は……、自宅に……」

「居たが、それが俺のアリバイになるかどうかは別問題だろ?」

「そ、それでは桂木殿が……、地産地消と言ったのは……」

「もちろん、地産地消になっただろ? きちんと中国本土で爆発したんだから、自分の不始末は自分で片付けられたんだから問題ない」

「問題ないって……」

「問題ないだろ? そもそも人様の国で中性子爆弾を使って大量虐殺をするような連中に対して報復をして何が悪い? 他人の尊厳を先に踏み躙る行為をするような奴には、徹底的に報復措置をするのが常識だ」


 少なくとも、俺が住んでいた異世界では、こんなことは常識。


「桂木殿……、今回の爆発で死んだ人間の数は1000万人を超えます!」

「だから?」


 コイツは何を言っているんだ?


「だからって……、これはやりすぎです! 青島には邦人も日本人も多くの方が住んでいたんですよ!」

「それが何か関係あるのか? 報復しない理由になるのか?」


 俺は肩を竦める。


「え? だって……」

「良いか? 良く聞けよ? 諏訪市に住んでいた罪もない市民を大量虐殺しようとしてきた連中に対して、俺は報復をしたに過ぎない。そして、中国に住んでいた邦人だろうが日本人だろうが、それは中国に税金を納めていたってことだ。つまり、中国の軍事活動に加担していたってことだろ? つまり、俺の敵ってことだ。敵には容赦しない。徹底的に殲滅あるのみだ。言っておくぞ? 自分が何を守りたいのか。何を守らないといけないのか。その見極めだけは間違えるなよ? お前は、この国の人間であって日本国を守るために存在しているんだろ? だったら、他国の軍事的侵略行為に対して報復した際に、相手がどれだけの被害を被るかなんて考える必要もないし、同情するなんてことは、絶対にしたらいけない。戦士がする事は、相手を如何にして効率よく無力化することだけを考えろ。同情や情けなんてモノは戦場では不要だ」

「……で、ですが……、今回のことで中国軍は海軍の9割、空軍の6割が消滅したらしく――」

「丁度いいじゃないか? 中国の軍事行動で困っていたんだろ? 国の方は」

「それでも、それだけの人が死んで……」

「住良木。何度も言わせるな。お前も、戦場に身を置いているんだろ? だったら、自国を守ることを最優先にしろ。優先順位を間違えれば大切な人を守ることすらできなくなるぞ?」



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