第447話

「それは違うの! お兄ちゃん! じゃなくて、お姉ちゃんじゃなくて、どっちがいいの? ――とりあえず、お兄ちゃん!」

「混乱の極みにいるのう。胡桃は――」

「とにかく違うの! これ見て! これ! 男の子が女の子になる小説! TS化って言うの!」

「TS化って何だ?」

「おほん! 桂木殿。肉体的異性化――、つまり性転換という意味です」

「ほう……。――というか、どうして住良木は、そんなのを知っているんだ? 胡桃もだが……」

「え? 結構、この界隈では有名なの!」

「どんな界隈にいるのか甚だ疑問の残る点だが……」

「とにかく! お兄ちゃんは、お兄ちゃんに戻った方がいいの!」

「はいはい。分かりましたよ」


 自身の遺伝子を操り、塩基配列から全てを弄ろうとしたところで――、


「はっ!」

「どうしたの? お兄ちゃん」

「困ったことが起きた」

「困った事?」


 胡桃が、首を傾げながら問いかけてくる。


「ああ。昨日、治療で力を使い果たしていて、力が足りない」

「――え? そ、それって、どういうことなの? お兄ちゃん」

「簡単に言えば、肉体を操る為には膨大なエネルギーが必要なんだが、それが現在は枯渇間際ってことで行えない状態だってことだ」


 俺は溜息をつく。


「それって……、お姉ちゃんになっちゃたってことなの?」

「いや、一ヵ月もあれば元に戻れるから特に問題はないな」

「ええーっ! それって大問題なの!」

「たしかに問題ではあるが、一番の問題は――」

「ご主人様。何か重大なことでも?」

「ああ。今日は、テストの日だ」

「……マスター。テストよりも、今のマスターの現状が問題」

「まぁ、仕方ないだろ。やっちまったものはしょうがない。とりあえずは――」


 流石に、銀髪に赤眼のままだと、この俺が諏訪市で治療行為をした人間だと言う事がバレバレだ。

 残った力で、赤い瞳の色を茶色へと――、そして腰まで伸ばした銀髪を黒髪へと変化させる。


「これで、何とかするしかないな。身バレするのは何とかしないとな」


 ソファーから立ち上がり、唖然として俺を見て来ている住良木を無視しつつ台所に行き麦茶が入っているピッチャーを片手に戻ってきて一気飲みする。


「――さて、今日の学校のテストだが、どうするか」

「お兄ちゃん!? まさか、そのままの恰好で学校に行くつもりなの!?」

「ああ。とりあえず、そのTSってのになったって適当な理由をつけて登校してテストを受ければ何とかなるだろう?」

「待ってください! 桂木殿。本当に遺伝子を操作する事が出来るのですか? あと、さすがに、その恰好での登校は無理がありすぎます」

「いや、だって、さっきは胡桃も住良木も、TS化ってのに罹ったってことにすれば問題ないみたいな発言していただろ?」

「問題おおありなの!」

「そうです。桂木殿! そんな非現実的なことを――」


 何か住良木が言っているが――、


「それよりも、住良木」

「は、はい」

「少し前から気にはなっていたんだが、どうして、家にいるんだ? さっき奇跡の病院の件か聞いたら違うって言っていたし、何か要件があるんじゃないのか?」

「いえ。分かりましたので……」

「それじゃ答えにはなっていないだろ? 何か理由があって、家まで来たんだよな?」

「………分かりました。その前にまず他言は無用でお願いします」

「別に構わないが、何か問題でもあったのか?」

「はい。じつは――、本日未明、中国人民共和国の青島付近が何者かの襲撃を受けて壊滅したと、各国家の上層部に限り情報が入ってきました」

「ほう……」


 青島ってどこだ? 都知事の名前じゃないよな?



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