第443話 第三者side
「少佐。その物言いは……」
「――ッ。少し、感情的になってしまった」
感情のまま言葉を吐き捨てた事に対して苛立ちを覚えながらも粛清を恐れた子轩(ズーシュエン)は、作戦指揮室から出る。
だが、彼の心の腸の中は、自身の完璧で芸術的な作戦を無に帰した桂木優斗と日本政府に対して煮えたぎっていた。
子轩は空母のデッキに出た。
一人となったところで、親指の爪を齧りながら――、
「(それにしても、仕掛けたファイアーセールを破ってくるとは思っても見なかった。そんな優秀なハッカーを日本政府が有しているとは、そんな情報はなかった。最近、設置されたばかりの日本のデジタル庁も素人同然の棺桶に片足を突っ込んでいた無能な老婆が就任し、すぐに引退していた事から見ても、日本のデジタル技術に関する認知度は高くはなかったはず……。そうなると、この私が仕掛けたファイアーセールに対抗できる組織力は、日本政府内には存在していなかったはず……)」
子轩は、空母のデッキから一望できる水平線を見ながら考えを巡らす。
「(だが、実際には、気が付いた時には、日本にアクセスしていたラインは全て切断されている処か、こちらの戦術スーパーコンピューターの内部にまでハッキングされていた。私が3桁にも及ぶファイアーウォールを設置していたのにも関わらず、それら全ての防壁すら、一瞬で突破されていた。本当なら、そんな事実を認める訳にはいかないが……。実際に、目の前で起きた)」
水平線に日が沈む様子を見ながら子轩は思考する。
「(目の前で起きたことは、納得し理解しなければならない。日本政府は、おそらく隠しているのだろう。未だに外へと出していない最新鋭スーパーコンピューターを……。そう考えれば、全ての辻褄が合う。まずは、日本政府が隠しているスーパーコンピューターの情報を仕入れて、新たなる戦術コンピューターを作らねば……)」
夕日が、完全に沈んだところで子轩はタバコを取り出した。
――翌日、中国が誇る最新鋭空母『山東』は、中国政府の要人の権威を知らしめる事の為に、式典に向けて中国人民解放軍海軍3大艦隊が一つ『北海艦隊』が基地としている青島に入港していた。
式典に向けられて、中国の威信をかけていた事もあり、『北海艦隊』の基地には、無数の艦隊が集合していた。
航空母艦2、巡洋艦駆逐艦合わせて46、近海軍用艦50、潜水艦11、強襲揚陸艦2、揚陸艦4、中型揚陸艦10、戦車揚陸艦20、さらに退役したばかりの駆逐艦、フリゲード艦を含めて20という大艦隊であった。
「少佐、壮観ですね」
「そうだな……(まったく、私の作戦が成功していれば、大手を振って寄港できたものを……)」
「浮かないようですが?」
「そうでもない。明日、開かれる中国海軍のセレモニーに関して少しだけ思うことがあっただけだ」
「少佐は、この船に搭載されている戦術コンピューターを作られたのですから、十分な成果だと思われますが? 中国人民解放軍海軍の中でも、少佐の名を知らない者はいないと思っております」
「それなら、いいのだがな……。まぁ、どちらにせよ――、これだけの大艦隊の演習は、偉大なる中国人民共和国を力を多くの国々に見せつけるには、十分なモノであろう」
「今回は、中国自民解放軍の空軍からも戦闘機が多数配備されるようです。何でも、その数は1000機を超えているとの話も――」
子轩が兵士と会話をしている間にも、軍港へと寄港した空母は、荷下ろしを開始していた。
そして――、会話をしていた子轩の視界の隅に映るモノがあった。
それは、何の変哲もない木箱であった。
だが、その木箱には桂木優斗が仕掛けた改造済みの中性子爆弾が入っていた。
中性子爆弾は、3日が経過した事からカウントダウンを開始していた。
ただ、それを知る者は誰もいない。
死へのカウントダウンが――、カウントされていく。
それを知らずに――、その中性子爆弾を持ち込んだことすら知らずに、
「それは、素晴らしい数だな」
子轩は呟く。
それに対して――、会話をしていた兵士も口を開く。
「はい。明日が楽しみです」
そう、兵士が返したところで、中性子爆弾のカウントダウンが終わり、中性子爆弾は、轟音と共に爆発した!
「――なっ!? なにが!?」
唐突に起きた巨大な爆発と閃光。
子轩は――、兵士は――、近距離で中性子爆弾の衝撃を受け何が起きたのかを知覚する事すら出来ずに、即死した。
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