第441話 日本国政府(2)第三者side

「総理、そんなことがあるわけが――」


 厚生労働大臣の西郷 藤樹が、疲れた表情で日本国総理大臣に対して苦言を呈する。


「とりあえず、世迷言かどうかは、これを見てみるといい」


 閣議室のスクリーンに映し出された光景は、桂木優斗が変身した姿で診察を行っていた場面の光景であった。

 閣僚たちは、半信半疑と言った様子で視線をスクリーンへと向けたが、まず彼らの目に飛び込んできたのは、絶世の美少女の姿であった。


「こ、これは……。美しいですな」


 経済産業大臣、瀬村の発言。

 その美しいという表現。

 それは、閣議室に居た閣僚の誰もが心の中で思ったことであった。


「ちなみに、これは桂木優斗とのことだ」


 日本国総理大臣、夏目一元の一言に、全員がお茶を吹く。

 テーブルの上は吹いた液体で大惨事になり――、


「ごほっ、ごほっ――。そ、総理……冗談は、ほどほどにしてください。どう見ても絶世のアルビノ系の美少女ではありませんか」


 咽ながらも辛うじて話した文部科学大臣の末元は、何度か咳をしながらも落ち着きを取り戻す。

 そんな彼とは対称的に、過呼吸になった男が閣議室に一人いた。

 男の名は、時貞守。

 日本国官房長官であり桂木優斗に対してトラウマを持っている男であった。


「だ、大丈夫ですか! 時貞官房長官!」

「…………」

「きゅ、救急車を! 早く! 救急車を!」


 騒然となった閣議室内。

 すぐに担当官が閣議室内から、官房長官を連れ出す。

 それを見ていた総理大臣は溜息をつくと小さく「官房長官、変えるか」と、呟いたが、その言葉は小さく誰の耳にも届くことはなかった。

 そんな総理大臣の考えとは別に、日本国防衛大臣の宮下は――、


「それで総理。本当に、この女性が桂木優斗だと言う事ですか? たしかな証拠は?」

「本人曰く、女装らしい」

「……こ、これが……じょ、女装?」


 信じられないと言った様子で、宮下は呟く。

 彼の言葉は、その場に集まっていた全員の心の声を代弁するものであった。

 何故なら! どこから、どう見ても! 誰が見ても! 絶世の美女にしか見えない! と、言うのが閣議室に集まった閣僚と、出入りをしていた担当官たちの率直な意見であったからだ!


「ゴホッ、ゴホッ――、それにしても最近の女装男子のレベルは高いですな」


 知ったような口調で、法務大臣の山村一矢は呟くが――、誰もが『いやいや、女装のレベルじゃねーから!』と、心の中でツッコミを入れまくっていた。

 何故なら、体のシルエットに至るまで完全に女性のそれであったから。

 しかも音声まで完全に女性。

 声色に至っては、透明感のある鈴の音のような美しい声に、柔らかい口調から、どう見ても、彼らから見ても男には見えなかった。

 さらに日本国総理大臣の一言。


「ちなみには上がってきている情報によると遺伝子レベルでの女装らしい」

「「「「「「「それは、女装ではないのでは!?」」」」」」」


 全ての閣議室にいた閣僚たちの声が揃った。


「おほん。私も、そう思うが本人は女装と言っているらしい」


 続けて発言した総理の言葉に、その場にいた全員が溜息をつくと、瀬村経済産業大臣が口を開く。


「それで、桂木優斗が女神と言う事は、また何かやらかしたので?」

「うむ。諏訪市内で暴動を起こした中国人が居たが、その被害者の救済措置に当たったとのことだ。しかも……、これは未確認だが、死んでいた人間まで生き返ったとの情報が記載されている」


 その総理大臣の言葉に、西郷厚生労働大臣に、閣僚たちの視線が向く。


「――わ、私は何も知らないぞ? 本当だぞ? 初耳だ。桂木優斗が、そんな力を有しているなんて。――だ、第一! そんなことが可能なのか?」

「神の力を有している人間ならば可能なのでは?」


 末元文部科学大臣がツッコミを入れるが――、


「落ちつけ。そもそも死んでいた人間が生き返ったことに関しては、彼というか彼女というか、どっちで言えばいいのか……、私も混乱しているが――」


 そう総理大臣が前置きをした上で、


「まず言えることは、桂木優斗は全ての力を、未だに隠しているのでは? と、私は考えている。だからこそ、下手に刺激せずに金で解決できるなら、上手く取引きをする方向で舵を切った方がいいと、考えている。そこは、閣僚の各々も理解されていると思うが?」

「――ですが、総理。いくらなんでも彼の力は強大すぎます。ここは、国連で桂木優斗の処遇を決めた方がいいのでは?」


 川野外務大臣の提案に、


「川野外務大臣。自国の国民を国連という機関に差し出す行為は、どういうことを意味するのか理解しているか? そもそも機能不全を起こしている国連に桂木優斗が従うとは考えられない。そのことは、今までの彼の行動のレポートを見て理解していると思うが?」

「……で、ですが! 中国などから圧力が……」

「それでもだ」

「……総理。一国だけで、神の力を持っている人間を独占することは国際世論において孤立化する要因となります。今回の中国の日本国内での軍事行動も、桂木優斗を独占しようとしていた日本国政府側に問題があるのでは?」



 


 

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