第六章 幕間
第440話 日本国政府(1)第三者side
――桂木優斗が中性子爆弾の処理を行ってから数時間後の首相官邸の閣議室。
「夏目総理」
扉から入ってきた担当官が資料を片手に部屋へと入ってくると、閣議室に集まっていた閣僚たちの視線が向けられた。
「どうかしたのか?」
「はい。内閣府直轄特殊遊撃隊所属 神谷補佐官からの連絡がありました」
「読み上げたまえ」
「本日、今から2時間前に、日本国政府からの依頼であった中性子爆弾の処理を桂木優斗が行ったとのことです」
読み上げられたコピー用紙に書かれている内容に、曇っていた閣僚たちの表情が明るく変わる。
「他には?」
顔色一つ変えずに問いかける日本国首相に担当官が――、
「あとは、六波羅命宗の壊滅、並びに中国政府が行っていたファイアーセールの解除――、並びに諏訪市全域に展開されていた特殊部隊を殲滅したとのことです」
紙に書かれている内容を読み上げていく。
「まったく――、一人軍隊ですな。本当に――」
溜息交じりに背もたれに身体を押し付ける日本国防衛大臣である小野平 五木は安堵の溜息をもらす。
「それにしても、総理が桂木優斗という人間に大きな裁量を与えるばかりが膨大な依頼金を払った理由が分かった気がします」
小野平の続く言葉に、夏目総理は小さく笑みを浮かべる。
「このくらいは、やってもらわねば、特別待遇を許可している意味がない。何せ、今の日本は、諸外国からは無防備な状況だからな」
そう語りながら、日本国首相は腕を組み、閣僚たちを一瞥したところで、官房長官である時貞が口を開く。
「それよりも、暴動を起こした中国人たちの対処はどういたしましょうか? 下手に対処を間違えれば内閣不信任案もありえます」
「日本国内での犯罪だ。許可していた日本での居住許可の取り消しを行った上、強制帰国でいいだろう」
「――ですが、中国人による暴動で死傷者も出ていると――」
「死傷者に関しては中国政府への追及のカードとして利用するとしよう」
「……分かりました」
「山川外務大臣。それで、問題ないか?」
「はい。あとは、中国が起した日本国内での内政干渉と軍事行動についての責任については、ODAと中国人外国人留学生への無償援助についてということで交渉カードを使えば宜しいかと」
「うむ」
外務大臣である山川と、日本国総理大臣である夏目総理大臣の間で、具体的な方針が決まったところで――、
「総理。あまり中国に圧力をかけますと食糧問題が――」
そう言葉を発したのは経済産業大臣の宮本 常次であった。
さらには――、文部科学大臣の末元 新八が立ち上がる。
「総理。中国人の外国人留学生制度を利用している割合は全体の半数を超えています。さらに国費留学生の数は――」
「それで文句が上がるというのか?」
「おそらく新聞各社、中国と繋がりのある国営放送までもが敵に回る可能性もありますし、留学生で学校の維持を行っている大学にとっては死活問題かと」
「君は馬鹿なのかね?」
末元の話を一刀両断する夏目総理。
「どこの国に、テロ工作活動を行った国の人間を優遇しておく国があるというのだね? 桂木優斗が居なければ、諏訪市の住人5万人が中性子爆弾で全滅していたんだぞ? その現実を踏まえた上で、語っているのか?」
「――で、ですが!」
慌てふためく文部科学大臣。
「そうです。さすがにやりすぎかと――。下手をすれば貿易を絞られる可能性も……」
「宮本経済産業大臣。何度も言わせるな。テロ工作を手動した国の人間に対して経済制裁を加えなければ、強気で対応をしなければ、国民からそっぽ向かれるのは、我々なのだぞ?」
総理大臣に睨みつけられた宮本と、末元は、歯ぎしりしながら下を向く。
「小野平国防大臣、火急速やかに被害状況の確認をしてくれ。時貞官房長官は、警察からの情報を整理して、暴動と、六波羅命宗が起した事件の詳細と被害者の把握を急げ。ここからは時間との勝負だ。発表時間が遅くなれば遅くなるほど、国民は不安になる。分かったな? それ以外の閣僚は、諏訪市で起きた事件を省庁単位で調査し報告書を上げるように」
そこで話を区切ったところで日本国総理大臣の命令で一斉に動きだす。
――それから時間が経過し――翌日の夕方を過ぎた頃、事件の詳細と死亡者数が判明するにつれて、焦燥感が立ち上り始めた閣議室に――。
「総理、大変です!」
「これ以上、大変なことがあるのか?」
上がってきた資料に書かれていた被害状況の大きさに、頭を痛めていた夏目総理は、担当官が差し出してきた資料を受け取る。
そして目を通していく。
「――こ、これに書かれていることは本当なのか!」
立ち上がり、担当官の両肩を掴む夏目総理大臣は興奮した面持ちの表情のまま、問い詰めるが――、
「諏訪警察署と赤十字病院から上がってきた情報ですので、間違いはないかと」
「総理、どうかされたのですか?」
諏訪市内の情報を不眠不休で集めていて、憔悴しきっていた小野平が問いかける。
「ああ。どうやら、女神とやらが赤十字病院に降臨したようだ」
突拍子もない総理大臣の言葉に、閣議室に集まっていた閣僚たちは、とうとう疲れて現実逃避してしまったのか? と、全員が心の中で言葉を浮かべていた。
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