第六章 姦姦蛇螺編 エピローグ

第439話 第三者side

 桂木優斗が、自室に入って即寝したのを、ドアを開け、こっそりと見学していた桂木胡桃は、ジーッと、寝姿を観察したあと、リビングに戻る。

 リビングでは、テレビゲームをしているアディールの姿と、ソファーで寝転んでいる白亜の姿があった。

 そんな二人の姿を見て、胡桃は冷蔵庫から牛乳を取り出すとコップに注ぎ、白亜が寝転んでいたソファーの空いていた部分に腰を下ろす。


「ねえ、白亜さん」

「どうしたのじゃ? 胡桃」

「あれって、本当に、お兄ちゃんなの? どう見ても女の体していたんだけど……」

「逆に聞くが、あれがご主人様ではないという証拠がどこにあるのじゃ?」


 チョリソーの袋を開けてもぐもぐと食べながら、そう白亜は聞き返した。


「証拠って……、どう考えても! 一般常識から見ても! 女の人だよね! 銀髪に赤い瞳に! 真っ白な綺麗な肌に! すっごい美少女で! 白亜さんよりも女らしい体つきしてたの! どう見ても! どこから見ても女性にしか見えないの!」


 胡桃は、興奮気味に捲し立てる。


「胡桃」


 ヒートアップした胡桃の名前を呼んだのはアディールであった。

 彼女は、ゲームをストップしたあと――、


「あれは優斗で間違いない。気配が優斗というか体を包んでいるオーラが優斗だった。たぶん、何らかの力を使って一時的に女になっているだけ」

「え? そんなことって可能なの?」

「まぁ、珍しくはないのう」


 アディールと、胡桃との会話に割って入って来たのは、ポテチを食べたあと、コーラ2リットルを一気飲みした白亜であった。


「どういうことなの?」

「ほら。妾だって、性別は、どちらにも変えられるからの」


 そう白亜が口にした途端、小さな煙が白亜を包み込むと共に、煙が晴れた中からは絶世の美男子が姿を見せる。

 金髪碧眼の少しマッチョな細身の20代前半の男。


「このように、妖怪からしたら性別はあってないようなものじゃ」

「それって、お兄ちゃんも妖怪って事になるんだけど……」

「ご主人様の場合は、妖怪も裸足で逃げ出すレベルなのだから問題ないのじゃ」

「えっと、それって問題なくはないと思うけど……」


 複雑そうな表情をする胡桃。

 胡桃からしたら、性別をコロコロと変えられる自身の兄に対して問題視しているのではなくて――、男の体を持つ兄が女の体に変身することを危惧していたのあった。

 何せ、性的に男女の境界線が曖昧になっていたら、男女の関係になった時に困る! という、至極全うな考えから、桂木優斗の妹は気持ちの整理が着かずモヤモヤとした気持ちを抱えてしまっていた。


「胡桃。良く聞く。魚やアメーバでも雌雄同体というのが存在する。それとマスターは同じ」

「もう人間ですらないの!? それ!」

「大丈夫。全生物、皆兄妹」

「定義が広すぎるの……はぁー。お兄ちゃんが起きてきたら、すぐにお兄ちゃんに戻ってもらうの」

「ふむ。それがいいのう。妾も、夜這いをする上でご主人様が男の体でないと稚児を……」


 そこまで呟いたところで、ハッ! と、したような――、何かに気が付いたようにソファーから颯爽と立ち上がる白亜。

 それを見て、一瞬で桂木妹は理解する。


「白亜さん。まさか、お兄ちゃんの寝込みを襲おうなんて真似は考えてないよね?」

「たまには受けを経験するのも良いのではないかと思ったのじゃが」

「普通に犯罪だから」

「仕方ない」


 しょぼーんとした白亜がソファーに座ると、煙と共に女へと戻る。


「それにしても、本当に性別の違いがないんだね?」

「妖怪というのは、元来、そういう存在だからのう」

「ふーん」

「胡桃、納得した?」

「納得はしてないけど理解はしたの」

「そう、それならよかった」


 アディールは、胡桃が理解したと言う事に頷くと、テレビゲームのストップボタンを解除しゲームを開始した。

 

「エリカちゃんは、ブロック消しゲーム好きなの?」

「このゲームは、ロシアでは有名なゲーム」

「へー。それで、エリカちゃんは、お兄ちゃんがお姉ちゃんになっていた事に関してどう思うの?」

「どうも思わない。マスターは、マスターのまま。私が成人するまでに、性別的に雄に戻っていてくれればいい」

「あ、その辺は譲れないんだ……」

「そこは胡桃と同じ」

「そうなのね(とりあえず、お兄ちゃんが起きたら、お兄ちゃんに戻ってもらおっと)」


  


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