第437話
「そんな事より、これだけの生存者が何処に居たのか? の方が、私は気になっているんだが……、教えるつもりはないようだな?」
「そうだな」
「分かった。それでは、あとはこちらで対応しておこう。それと赤十字病院では、かなりの問題を起したそうだが……? 桂木警視監、もう少しスマートに出来ないものか? さすがに情報統制が出来ない」
「まぁ、あくまでも、この姿は仮だからな。だからこそバレてもいいように女装しているわけだし」
「はぁー。もういい。とりあえず桂木警視監。一つ頼みがあるのだが……」
「頼み?」
「ああ。こっちには急遽戻ってきた訳だが、じつは桔梗という巫女が、君が治した辻本を殺そうとしたのだ」
「そうか」
まぁ、あれだけ憎しみの視線を向けていれば、そうなるわな。
それに何せ、蟲毒の中心として使われていたのだから、俺が見た被害者の記憶からも、それは伺い知れる。
「ん? 分かっていたような素振りだが? 知っていたのか?」
「まぁ、普通に考えれば分からないことでもないだろ」
「それで、桂木警視監に頼みたいことは、彼女の説得をしてもらいたい」
「何故に?」
俺は首を傾げる。
「日本は法治国家であり、復讐を許可していない。それに、辻本という男は、罪を償う必要がある」
「罪ね……。そもそも、ここの宗教の長が起した事件で被害が出た件について、普通に償って許される範囲なんて、とっくに許容量をオーバーしていると思うが?」
「それでも、刑事事件として裁判にかけることが検察の法治国家のあるべき姿だと思う」
「随分と、御立派な考えを御持ちで――」
正直、俺としては、桔梗の事に関しても、辻本に関してもどうでもいい。
「俺には関係のないことだ。取り調べは長野県警が行うことだろう? その際に、問題が起きれば、それは警察の怠慢というわけだ。だから、俺が助けることはない。それに、俺、明後日テストなんだが?」
もういい加減帰りたい。
そんな俺の心境をお構いなしに、本山は口を開くと――、
「大丈夫だ」
そんな何の根拠もないような口ぶりで俺の能力の高く評価? してくるが……、正直、テストは自信がないんだよな。
本山の根拠のない自信が、どこからくるのか確認したい。
「ほう……。ずいぶんと俺のテストに関して自信があるようだな」
「ああ。間違いない。君の今回のテストは受けても受けなくても赤点は確定だ」
「そっちかー」
「だから、どうだろうか? さすがに巫女という超常的な力を振るう人間を、御するのは警察では無理がある。だから、取り調べを手伝ってもらいたい」
「それは無理だ。俺の知り合いが、テストに関して、かなり心配しているから、そこは譲ることはできない」
どうしても譲れない。
都に怒られるからな!
俺が譲らないという態度を見せたことで、ようやく踏ん切りがついたのか、本山は――、
「……分かった。――では、テストが終わってからというのはどうだろうか?」
そう提案してくる。
ふむ。――ならば、金を請求しても問題ないか。
「いくら払う? 俺の仕事の範疇には入ってないから10億円くらいは、貰いたいところだ」
正直、今回の長野県警からの依頼だって、俺は一人1億の依頼金で動くと神谷経由で連絡はいっていたはずだからな。
しかも病院で事件に関係のない人間まで治療したし。
「10億は、さすがに……」
「今回、一人1億円で仕事の依頼を受けると神谷経由で連絡がいったはずだ。まさか無料で仕事をしてもらえるという考えはしてないよな?」
「だが、契約はしては……」
「今回は例外だ。長野県警には貸し一つってことで手伝ったに過ぎない」
まぁ、実際はロハではなかったからな。
日本政府からの依頼で中性子爆弾を止めたから5000億円は貰えるし。
まぁ、その5000億円も陰陽庁の数年分の経費で消えてしまうが。
「とりあえず、俺は、もう帰らせてもらう。あとは、てきとーに宜しく頼む」
「……分かった。気が向いたら手伝ってくれ」
「気が向いたらな」
本山に言葉を返し、俺はハイエースへ乗り込む。
少しして運転席に村瀬が乗り込んだところで――、
「当主様、本当に、このまま帰宅してもいいのですか?」
村瀬が確認のために聞いてくるが――、
「問題ない。とりあえず山崎とパンドーラを拾ってホテルまで送り届けたあと、千葉に帰るとしよう」
そう返事を村瀬に返したところで、伊邪那美がジッと俺を見てくる。
「な、何かあったのか?」
「桂木優斗。妾の報酬は?」
伊邪那美が、そう尋ねてくる。
「昨日100万円渡したはずだが……」
「汝、妾を安く使おうと?」
ちっ、仕方ないな。
「分かった。仕事分の報酬は後で支払う。それでいいな?」
「うむ。報酬は期待しておるぞ!」
完全に俗世に染まっているな、この神様は。
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