第435話

「ほう……。だが――、それは俺の仕事ではないな」

「ふむ」

「依頼は依頼として完遂したからな。容疑者も警察に引き渡したのだから、俺が出張る必要はないだろう?」

「あくまでも人に任せるということか?」

「ああ」


 俺は肩を竦めながら、答えつつ大空洞へと通じる通路を歩く。


「あまり人には興味はない……そういうことか?」

「さてな」


 伊邪那美の追及に、俺ははぐらかすように答える。

 人間に興味ないという言葉、それは間違ってはいないが本質的には異なっている。

 俺は、等しく――、都を生贄にした人間を憎んでいる。

 人間なんてどうなろうと、どうでもいい。

 だから、興味がないのではない。

 そう心の中で呟きながら、俺は大空洞へと飛び降りる。


「伊邪那美」

「問題ないのじゃ」


 伊邪那美は、光りを纏うとゆっくりと音もなく大空洞の地面へと降りてくると着地する。


「それは?」

「神力と言えば分かりやすいか。羽衣伝説というのを知っておるか? あれと近しいモノになる」

「ほう……」


 まったく! 知らないが! まるで、さも知っていて当たり前のような言い方をしてくるので、俺は頷いておく。


「それにしても酷い状態になっているのう」

「それほどか?」

「うむ。雑多な思念が渦巻いておる。まさしく蟲毒と言った感じじゃな」

「それじゃ、生き返らせることが出来る肉体を餞別してくれないか?」

「肉体というか骨しかないがの……。まずは、そっちの大岩の下から縁が黄泉へと伸びて居る」

「了解した」


 身体強化した上で、数十トンはあるであろう大岩を片手で持ち上げる。


「この骨か?」

「うむ。どうじゃ? 治せそうか?」

「遺伝子が採取出来れば問題ない」


 大岩を、骨が転がっていない場所へと移動したあと、骨を砕き細胞を採取し遺伝子解析したあと、修復していく。


「ふむ。年齢としては10歳未満の幼子と言った感じじゃな」

「たしかに……」


 肉体を修復させたところで、よく見てみると小学低学年の幼女。


「まったく、このような幼子を蟲毒の生贄に使うとは――。ほれ、桂木優斗」


 伊邪那美から渡された魂を受け取り幼女の肉体との接続を行いリンクを確立させる。


「あとは、記憶の処理だな」


 額に手を当てて、削除する記憶を選択する為に一ヵ月の間の――、魂からフィードバックされた記憶を視ていく。

 そこで――、


「随分と険しい顔をしておるが大丈夫か?」

「ああ。問題ない。それより――」


 流石に、胸糞悪い光景を――、記憶を見せられたことで苛立ちを覚える。


「生きたまま喰われて殺された。しかも嬲り殺された」

「ふむ。それで、そんな表情をしておるのじゃな」

「ほっとけ。それより、他の生き返らせることが出来る奴もいるんだろう?」

「うむ」

「さっさとやるぞ。生き返らせられなくなったら面倒だからな」


 伊邪那美と協力し、蟲毒として生贄として利用された人間の骨を解析し修復していく。

 さらに森の中で殲滅したゾンビを含めて、全てを終えた頃には、日は完全に昇っていた。


「これで最後だな」


 六波羅命宗の施設の建物に運び込んだ生存者――、俺が生き返らせた人間、合計、102人を寝かせたあと、俺は溜息をつく。


「それにしても発表よりも、ずいぶんと多かったな」

「旦那。服を買ってきました」

「悪いな」

「気にしないでください。それよりも、ずいぶんと生き返らせたんですね」

「幸太郎。気にする事はない。流石に国津神が関与している問題であるからの。その辺に関しては、かなりの情状酌量の余地があったのだ」

「良くは分かりませんが、命が言っているのなら問題ないんでしょう」

「うむ。それに黄泉への手向けは、向こうに転がっている信徒だけで十分事足りるからの」


 伊邪那美が視線を向けた先には、崩れ落ちた建物があり、そこには1000体を超える六波羅命宗の遺体が転がっている。


「当主様。向こうの遺体は、生き返らせなくても?」

「必要ない。人を生贄にするような組織に属している人間に慈悲を――、哀れみを施すほど、俺は甘い人間ではない」

「そうですか……」

「それより警察へは連絡したのか?」

「はい。神谷警視長経由で連絡をお願いしました。おそらく、すぐに諏訪警察署の方々が来られるかと」

「そうか。それなら、あとは引き渡して俺の仕事は終わりだな」


 それから1時間後――、


「桂木警視監はどちらに?」

「ここだ」

「「――え?」」


 俺が返事したが、俺の姿を見た長野県警の本山と、諏訪警察署の都築は二人とも凍り付いていた。








 

 











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