第434話

 山崎達が泊まっているホテルに到着したあと、夕食を食べ終わるのを待ってから伊邪那美をホテルから連れ出す。


「旦那、どこへ行くんですか?」

「ホテルじゃ、説明できないからな」


 ハイエースに乗り込んだあと、山の方へ向かって移動する中、六波羅命宗の施設へ向かっている事を説明すると共に、諏訪市で起きた事件についての詳細を、伊邪那美、山崎、パンドーラに説明する。


「人を使って神を作る蟲毒を行うとは愚かな……」

「数千年前から、人は、何一つ変わっていませんね」

「胸糞の悪い話ですね。旦那」

「まぁ、そう言う事もあって、生き返らせることが出来るのなら、できる範囲でやっておきたい」

「ふむ。因果関係に触れることではあるが、汝には、それを行うだけの資格があるから、文句は言わんが――」


 そこで、伊邪那美は言葉を切り、真っ直ぐに俺を見てくる。


「本当に良いのか?」

「何がだ?」

「死者を無暗に生き返らせる力なぞ権力者にとっては脅威でしかないであろう?」


 その言葉に俺は肩を竦める。

 伊邪那美の言いたいことは分かる。

 権力者が、自身の名声や権力を守るために、力ない人間を生贄にして殺す事実を――、その生贄が生き返れば、事実を公表され窮地に追い込まれることを。

 そして、それが可能な俺の力を危険視して敵に回るであろうことを伊邪那美は、指摘してきているのだ。

 異世界でもよくあった事だから、もはや今更な問題だ。

 俺は、俺のやりたいようにやる。


「はっ、上等だ。この俺様に喧嘩を――、俺の邪魔してきたのなら、そいつは殲滅対象だ」

「まったく、血の気が多いやつよのう」

「当主様。見えて参りました」


 会話をしている間に、六波羅命宗の施設に到着したようで――、施設の入り口には、立ち入り禁止のテープが張られていた。


「警察関係者が張ったようですね。旦那」

「そうだな」

「しかし、これは……また……、酷いモノであるな」


 顔をしかめる伊邪那美。


「蟲毒というには、些か、無作為なモノですね。正直、ここまで悪意に満ちた建物は見た事がありませんね」

「通路に転がっている死体は、旦那が?」

「ああ。それより地下に向かうぞ」

「それより旦那、いつまで女装を?」

「姿を見られたら困るからな。警察関係者以外が来たら困るだろう?」

「それなら、命以外、旦那とは一緒に行かない方がいいですね」

「うむ。それがよいであろうな」

「それでは、山崎様とパンドーラ様は、車の中でお待ち頂くということでどうでしょうか?」

「ああ。それで頼む」


 村瀬に、二人を任せる。

 車には、一度、施設から離れてもらい、俺と伊邪那美だけで施設の地下へ向かう。

 施設内部へ足を踏み入れたところで死臭が鼻につくが、戦場ではよくあることなので、無視し地下へと向かう。


「まったく人間というのは度し難い愚かな事を繰り返す生物よのう」


 施設内の電気は生きているようで、エレベータ―を使い地下へと向かう。

 地下の大空洞に到着したところで、伊邪那美の視線が鋭く変化していき――、


「神降ろしをしたのか……愚かな……。しかも、使った法は、『反魂の法』……。神たる力を――、穢れを作り出す法で降臨させようとするとは……、どこまでも愚劣な――」

「伊邪那美?」

「桂木優斗。この件は、汝が思っていたよりも奥が深い事件であったようだ」

「どういうことだ?」

「まだ、その教祖から話しは聞いていないのであろう? 徹底的に追及した方がよいぞ」


 眉間に皺を寄せ乍ら、伊邪那美は崩壊した大空洞の中空を見上げていた。


 

 

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