第433話
診察室に戻ってから、診察を開始して数時間が経過し、完全に日が沈んだところで、俺の業務は終わった。
「あー、マジで疲れたわ」
肩を回しながら、山積みになったカルテを横目にコーヒーを飲む。
「一体、何人診察したのか。1000人を超えたあたりから覚えてねーわ」
首の骨を鳴らしながら疲労していた肉体を修復しつつ、カロリーメイトを口の中に入れてスポーツ飲料で呑み込む。
「いやー、本当に素晴らしい手際で――」
「世事は必要ない。今日は、長野県警からの依頼で仕方なく流れで対応してやったが、これっきりだからな。それと、俺の治療で、かなり儲かったはずだから、俺の本名は絶対に漏らさないようにしろよ? もし、漏らしたら分かっているな?」
「は、はい……。――で、ですが、どうでしょうか? 赤十字社と提携するというのは……」
赤十字病院の院長が、一方的な提案をしてくるが、
「それは無理だな」
俺はバッサリと切って捨てる。
「俺の医療行為は、俺の行っていることを見ていれば分かると思うが、はした金で使っていいモノではない。きちんと対価を支払ってもらわないと困る」
「それは分かっていますが……」
「――なら、この話は、これでしまいだ」
「分かりました……。それと、桂木警視監の事については他言無用としておきます」
「理解頂き感謝する」
そう、俺は告げて椅子から立ち上がった。
そして一応、霊安室で生き返らせた人間が無事に生きているかどうか確認する為に、波動結界を展開したが――、
「おいおい……」
思わず溜息が出る。
「どうかされましたか?」
「病院の前に、多くの人間が居ないか?」
「ああ、それは――」
言い難そうな表情で口を開く院長は――、
「実は、マスコミやテレビ局が取材に詰め掛けてきてまして……、何とか病院に入るのを抑えている状況でして……」
「また面倒な――」
「どうしますか? 裏口まで完全に――」
「問題ない」
そう返事したあと診察室を出て、エレベータ―で屋上まで移動し、報道陣が詰めかけている場所から離れた場所へと屋上から飛び降りて着地する。
その後は、マスコミに見つからないように停まっていた黒のハイエースへと近づく。
「当主様、お待ちしていました」
「ああ。お疲れ。それより、もう病院は受付が終わったというのに、駐車スペースが埋まりすぎだろ」
「当主様のせいです」
「やっぱりかー」
「ちなみにテレビ局やマスコミだけでなくインスタ目当てのSNS芸人や、動画サイトの生主なども来ているようです。あとは、明日、診察を受けようとしている徹夜組が――」
「もう、いい」
俺は、ハイエースに乗り込む。
そこには伊邪那美や、パンドーラや山崎に田所も居ない。
「他の連中は?」
「田所巡査長は、報告のために諏訪警察署へと戻りました」
「ふむ。――で、伊邪那美達は?」
「山崎様達は、市内を観光するそうです。近くのホテルに部屋を借りたと連絡がありました」
「そうか……。まぁ、今回は伊邪那美に迷惑をかけたからな」
「それで、当主様は、いつまで女装を?」
「流石に、女物の下着と衣類を着た状態で男に戻れないだろ?」
「それはそうですね」
「とりあえず、伊邪那美達が停まっているホテルに向かってくれ」
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