第432話
赤十字病院の地下2階の霊安室へと入ったところで、一人立っている伊邪那美へと視線を向ける。
「遅くなって悪かったな」
「特に気にはしてない」
「そうか」
俺は遺体へと近寄り懐から紙を取り出す。
紙には、中国人が犯した暴動で死んだ17人の被害者の顔写真と名前が載っている。
「とりあえず、一人一人確認していくとするか」
「うむ。早く蘇生措置をした方がよいからの。まずは――」
伊邪那美が、まだ魂が輪禍に帰っておらず、肉体との縁が繋がっている遺体を指差していく。
俺は、その遺体を確認しつつ肉体を修復し再生させる。
そして肉体が鼓動を始めたところで、伊邪那美が空中に開けた穴から取り出した光る玉――、魂を受け取り肉体と精神と魂を繋いでいく。
「パンドーラの肉体蘇生をした時の経験が生きたな」
「こんな事が出来るのは、お主くらいなモノだ」
呆れたような顔で、呟く伊邪那美を後目に、17人、全員の蘇生を終える。
「――さて、あとは……、伊邪那美」
「どうかしたのか?」
「魂ってのは、どのくらいで輪禍に返るものなんだ?」
「そうだのう。早ければ一週間、遅くても2週間と言ったところかの」
「なるほど……」
それなら余裕を持って一か月分の記憶を削除して操作しておいた方がいいな。
死に間際の記憶なんて持っていても困るだけだろうし。
俺は全員の一か月分の記憶を消していく。
10分ほどで全員の一ヵ月分の記憶を消去したところで――、
「何をしたのだ?」
「死に間際の記憶の消去をした。起きてから覚えてたらトラウマになるだろう?」
「なるほど。たしかに黄泉の国の情報が洩れるのも面倒だからのう。以前に、黄泉の国から返した人間達と同じ対応をしたということじゃな?」
「ああ、そんな感じだ。あと、伊邪那美」
「まだ、何か?」
「あとで一緒に向かって欲しいところがある」
「良かろう」
即答してくる伊邪那美。
「――で。今からいくのか?」
「そうしたいのは山々だが、流石に受診にきている患者を放置しておくのは暴動になりかねないからな」
「珍しいのう。汝が、金にならない事で動くとは」
「仕方ないだろ。流石に、奇跡の病院の肩書を出して「はい、終わり」とは言えないからな」
「ふむ。(……甘い奴だのう)」
「とりあえず現地に向かうのは日が暮れてからだ。それまでは、ゆっくり観光でもしていてくれ」
懐から財布を取り出して伊邪那美に手渡す。
現金としては100万円ほど入っている。
――だが、今回の伊邪那美の手助けは100万円では安すぎると思うが――、
「財布に入っている現金については自由に使ってくれ。村瀬は運転手をして使っていいから」
「ふむ……、つまり、これは手伝い費用ということか?」
「まぁ、そんなところだ。手伝ってくれた事に関しては、きちんと対価を払うのが俺の心情だからな。足りなかったら、あとで電話でもしてくれ」
「それなら、遠慮なく使わせてもらうとするかのう」
「ああ。俺としても、そうした方が、気が楽だからな。じゃ、俺は診察室に戻る」
伊邪那美と別れたあと、俺は診察室へと戻った。
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