第431話

 まず通されたのは集中治療室。


「最初は、重傷者を見られるとのことでしたので、こちらになります」

「ええ。助かりますわ」

 

 優雅に――、そして貴族のごとく歩く俺を見て口をあんぐりと開ける事情を知らない入院患者や、その関係者、病院関係者。


「あ、あの……折本外科部長、彼女は?」


 男性の看護師が、話しかけてくるが――、


「奇跡の病院のドクターです」


 そう短く答える折本に、


「エリーゼ・フォン・リンゼルブルグと申します。本日は、長野県警からの依頼で、怪我を負った方の治療に伺わせて頂きました」


 微笑み、首を傾げながら流し目を送る。


「あっ――。あ、はい……」


 ぽーっと見てくる男。

 ちょろいな。

 

「それでは、Dr.折本様。患者様の容態を見せて頂いても宜しいでしょうか?」

「え。ええ……」


 おい、お前まで頬を赤らめてどうするんだ。

 集中治療室へと入ったあと、容態を確認していく。


「内臓破裂と眼球破裂ですね」


 額に手を当てながら診断しつつ、瞬時に肉体を再生させる。


「終わりました。次に向かいましょう」

「え? も、もう?」

「はい。この程度でしたら1秒もあれば修復できますので」

「少しお待ちを――」


 折本が、顔に巻かれていた包帯を取っていく。

 包帯の下からは、怪我一つない顔が姿を見せていく。

 そしてペンライトを取り出した折本が寝ていた男性の目の瞳孔を確認し――、


「な、治っている……」

「どうでしたか? 内臓も、きちんと修復しておきました」

「き、君! すぐに武村内科部長を呼んできてくれたまえ。あと検査を」

「分かりました」


 折本が、一緒に、集中治療室へ入室していた看護師に指示を出すと、看護師は集中治療室から出ると、壁に掛けられていた受話器を取り出すと、どこかに電話をかけ始めた。


「あの……」

「何でしょうか? エリーゼさん」

「このように待っていると時間が惜しく感じませんか? 他の患者の方も診て回りたいのですが?」

「そ、そうですね……」


 他の医師が、本当に完治しているのか確認の為に集まってくる中、時間が勿体ないから、俺は手当たり次第治療していく。


 そして――30分後。


「これで最後の患者です」

「そうですか」


 俺は、骨折している老人の足を修復し、笑顔を向ける。


「お爺さん、どうですか? 歩けますか?」

「お、おお……。あ、歩ける……。それに腰も痛く無いぞ……、それに目もハッキリと見える。腰もピーンと……」

「他に痛いところはありますか?」

「――いや、それにしても……、一体どうやって……」

「それは企業秘密ですわ。それでは、無理をなさらないでくださいね」

「ありがとう! あ、そうだ……」


 男性老人は、俺を見てくる。


「婆さんの容態を見て貰う事は可能かの?」


 俺は、途中から合流した、赤十字病院の院長、小林へと視線を向けるが、中年の小林は、『まだ、俺が治療した連中の検査が終わってない』と、頭を左右に振る。

 まったく時間かかりすぎだろ。

 俺ならゼロコンマ1秒の速度で瞬時に診断を下せるというのに。

 まぁ、ダラダラとしていても仕方ないからな。


「ええ。構いませんよ? 連れてきて頂ければ診察いたします」

「おお、すぐに連れてくるように連絡するからのう!」

「あ、はい……」




 ――1時間後。


「婆さん! 儂が分かるのか!」

「お爺さん! ここは一体……。それに目が良く見えます」

「治療は終わりました。御親族の方、無理を言って連れてきてもらい申し訳ありません」

「――い、いえ! こちらこそ! こんな妖精のような女医さんに診てもらって――」


 何だか知らないが、身なりのいい20代の男が、先ほどから俺にアプローチしてくるが、そういうのは迷惑なので本当にやめてほしい。


「いえいえ。それでは次の方、お願いします」


 俺は、キッ! と、院長の方を見るが、顔を青くした院長が頭を左右にふる。

 どんだけ検査に時間がかかっているんだ!

 金にならない仕事はしたくないと言っただろうが!


「どうかなさいました?」

「何でもありませんことよ」


 はぁー、マジで死にてええ。

 ようやく病室から認知症の親族が出ていった。

 そして病室には、俺と院長だけが残る。


「『ザザッ……、優斗よ』」

「ようやくか。――で、首尾はどうだ?」

「『霊安室で確認したが、魂との縁は、繋がっておる。すぐに肉体を再生させて魂との接続をすれば、生き返らせることは可能であろう』」

「了解だ。院長、少し席を外す」

「――え? ちょっと、待ってください!」

「待たない」


 俺は、診察室から出る。


「……うっ」


 診察室の前には、大勢の行列が!

 俺は、咄嗟に診察室の扉を閉める。


「こ、これは一体?」

「じつは……」


 院長が、スマートフォンを差し出してくる。

 スマートフォンの画面――、そこにはSNSが表示されていて――、俺が女装した姿、エリーゼの写真と共に、


「ほう。『奇跡の病院から女神が降臨中! どんな病も治してくれるぞ! だと? ……ふむ。どういうことだ? 院長?」

「わ、私は何も知らない! 患者が勝手に……」

「はぁー。まぁ、仕方ないか」


 こうなる事は想定内。

 

「それで、さっき俺を引き留めようとしたと?」

「はい」

「――ったく、しょうがねーな! だが、その前に治療を行う必要がある患者がいるから、少し待たせておいてくれ」

「分かりました。」

「それと着いてくるなよ?」


 釘を刺したあと、俺は窓を開けて5階の診察室から飛び降りて霊安室へと向かった。

  

 

 


 


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