第430話
院長室に戻ったあと、待つように指示された俺は、伊邪那美と共に院長室で待たされることになり――、
「桂木警視監。こんなところで自分は油を売っていてもいいんでしょうか」
「そうだな。そう言われると困るところだが、何かあった時に第三者が俺の動向を伝えられるようにしておくのは重要だからな」
「はぁ……」
コーヒーメーカーを使いながら、コーヒーを淹れてからソファーに戻る。
「それにしても伊邪那美は、まったく話さないな」
「妾の言葉は、神言(ことだま)であるからの。このような生死が当たり前の場所では、滅多に話さぬ方がよいのだ」
「ふーん」
「あの……、桂木警視監」
「どうした? 田所巡査長」
「こちらの方は……、お名前を聞いてしまったのですが、まさか――」
「ふむ」
そう前置きした伊邪那美がソファーから立ち上がる。
「妾は、ファイナルゴッドのバンドのギター担当! 伊邪那美命である!」
「えっと……、医師ではないと?」
「まぁ、そうなるの」
「はぁ……、つまり伊邪那美という名前も、バンドの名前みたいな?」
「そうであるな」
「はぁ。ビックリしました。まさか、神話時代の神々が降臨したのかと思いました」
「そんなことがあるわけがなかろう」
「そうですよね」
二人して笑い合っているが、どう見ても伊邪那美の目は笑っていない。
うまく誤魔化せたのか確認している表情だ。
そうして、時間を潰していると院長の扉がバン! と、開く。
「桂木警視監!」
「どうかしたのか?」
勢いよく入ってきた院長を上目遣いで見ながら言葉を返すが――、
「本当に治療出来ていたと言う事に驚きました」
「ほう。――では、治療行為をしてもいいと言う事だな?」
「もちろんです。それどころか、ここの赤十字に入院している患者を全て診てもらったもいいくらいです!」
「それは遠慮しておきたいな」
「――そ、それでは、当院の専属というか時々、足を運んで頂けるなどは……」
「その可能性もないな。今回は、あくまでも長野県警から受けた仕事のついでだからな」
「――さて!」
俺はソファーから立ち上がる。
実力は見せた。
そして相手も納得した。
ならば、あとは怪我人の治療を行うだけだ。
「桂木警視監、お願いですから」
「俺は仕事の依頼は受けるが、無償で誰かを治すような真似はしない。ほら! 今から、患者のところに案内してもらおうか? それと、身バレしても困るから、俺が桂木という名前だということは内密にしてくれ」
「…………わ、わかりました。それでは、お名前は何と言えば……」
「エリーゼ・フォン・リンゼルブルグと呼んでくれ」
「えっと……、それでは、エリーゼ様で?」
「エリーゼでいい」
「分かりました……」
一目で肩を落としたのが分かるが、ただで仕事を受ける義理はないからな。
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