第429話
「話とは、診療のことかね?」
「ああ。話は長野県警から来ていると思うが?」
「ふむ……」
俺の体を舐め回すように見てくる院長と呼ばれた男。
相変わらず男は女性の体に対しては無遠慮に見てくるな。
「分かった。一応は、国からの要請でもあるし、断る理由もない。だが――、この二人を同行させてもらうのが条件になる」
「ああ、構わない。それと、患者を診ている時は、口調は変えるから、合わせてくれ。さすがに、この口調だと女装する意味がないからな」
「……最初から口調を変えてもらいたいものだが……。おほん、私は、この赤十字病院の院長をしている小林と言う。それで、この二人が――」
「折本です。外科部長をしています」
「武村と言います。役職は内科部長です」
「桂木優斗だ。一応は、奇跡の病院の院長という肩書も持っているからよろしく頼む」
「――き、奇跡の病院? あの山武郡の?」
「そうだが、知っているのか」
「も、もちろんだ。奇跡の病院についての話をしらない医療関係者はいない。ま、まさか……ほんとに、どんな病でも完治させることができるのか?」
「そこは企業秘密だ」
「――だ、だが、長野県警が直接、連絡をしてきたということは……。わかった。全面的にサポートさせてもらおう。だが、もう一つ、頼み事がある」
「頼み事?」
「他の患者の容体も見て貰う事は出来ないだろうか? ぜひ、君の実力を見せてもらいたい」
「ほう……。俺が実力を見せれば全面的に協力すると言う事か?」
「そうなる。どうだろうか?」
「まぁ、別に構わないが。どんな病でもいいぞ」
「それでは、折本君。307号室の患者のカルテを持ってきてくれ」
「え? 307号室の!? 和田さんの?」
「ああ。すぐに持ってきてくれ」
「分かりました」
院長室から出ていく眼鏡をかけた30代後半の男。
――5分ほどして、
「お待たせしました。こちらが患者のカルテになります」
渡されたレントゲン。
目を通していくが――、
「(さっぱりわからん)」
「どうかね?」
「ふっ、まずは患者を見せてもらおうか? 307号室だったな?」
そもそも俺の知識にレントゲンをどう見ればいいのか? という知識がないからな。
直接、患者を診ないと何も分からん。
ボロが出る前にさっさと307号室に向かった方がいいだろう。
席から立ち、颯爽と307号室へと向かう。
俺を引き留める声が聞こえるが無視。
「ここか」
307号室の扉をスライドさせて足を踏み入れる。
307号室には、患者は一人だけ。
機械に繋がれているが、患者は眠っているというか目を開けたまま寝ている。
「ふむ」
誰も親族がいないのが救いといったところか。
「待ちたまえ。その患者が何か分かったのかね?」
「任せておけ……じゃなくて、任せて頂けますか?」
鈴の音が鳴るような美しく綺麗な声で言葉を返しながら、寝ている男の額に手を触れ――、細胞状態、遺伝子配列から遺伝子設計図までを瞬時に解析する。
「なるほど。人体が骨化していく病か……じゃなくて、病なのですね」
「――な! いまも短い診療で……!?」
「ええ。この程度でしたら、治療することは可能ですわ」
「待ってくれ。その患者は難病指定されている後縦靭帯骨化症の――」
「問題ない……じゃなくて問題ないですわ」
――やばいな。
冒険者の駆け出し時代に、後宮ではよくモンスターを討伐したり依頼人を警護していたが、女神をぶち殺す算段がついてからは、久しぶりだから、口調にボロがでまくるな。
そんなことを思考しながらも、俺は患者の遺伝子配列から設計図、細胞の組み替えを行い既に変容してしまっている肉体の修復も行う。
「これで治療は終わりましたわ」
俺は後ろで見ていた医師たちに振りむき笑顔で話しかけるが――、
「い、一体……何をしたというのかね? ただ、患者の額に手を触れていたとしか……」
「そう思うのでしたら患者さんの容態を先生が診てみたら如何ですか?」
「折本君」
「わ、分かっています。院長」
場所を折本に譲ると、触診していた医師の顔色が明らかに変化する。
「ま、まさか……、そんな……馬鹿な……」
「どうですか? 折本せんせー?」
「精密検査を……」
「別に構いませんけど、その間に他の運ばれてきた患者を診てもよろしいですか?」
「待ってくれ! そ、それでは、形成外科の患者を! そちらの患者の方が分かりやすい」
「はぁー、わかりました」
仕方ねーな。
面倒だが実力を見せるとするか。
309号室。
患者は起きていた。
俺は、内心溜息をつきながら――、患者――、20代前半の女性に近づく。
すでに女性のどこが悪いのかは一目で理解できた。
顔が包帯でぐるぐる巻きにされていたからだ。
「あの……どなたですか?」
俺を見た女性が困ったような声色で話しかけてきた。
「椚木(くぬぎ)さん、安心してください。かれ――じゃなくて彼女は当院の新しい勤務医です。かなり腕がいいので、診てもらってください」
すぐに、俺のフォローを入れてくる武村。
「は、はい……。あの先生には……」
「大丈夫です。形成外科の初島さんには許可はもらっていますので」
いつ許可を取ったかは知らんが、武村は涼しい顔をして患者を説得している。
「そ、そうですか……」
「それでは失礼いたしますね」
俺は、一言断りを入れて椚木という女性に近づく。
そして、包帯を外す。
包帯の下から出てきたのは、酷い火傷の顔で片眼が白目となっている。
「それでは治療を開始します」
俺は、女性の頬に手を触れたまま肉体再生を行う。
「おおっ……。ま、まさか……、これほどとは……」
数秒で顔の筋肉から眼球、神経細胞、表皮まで全てを再生し、さらに――、体中に打ち身や打撲も一緒に治療する。
「え? せ、先生? 両目が見える?」
「どうですか?」
俺は、鏡を取り出し女性に手渡す。
しばらく自身の顔を見ていた女性はポカーンとしていたが、自身の手で触りはじめ、徐々に実感し始めたところで、俺の後ろに立っていた医師へと視線を向ける。
そこで感激していた様子の医師が、咳払いをしてから――、
「ええ。私から見ても椚木さんの顔は再生というか治っているようです?」
「え? ――で、でも……、治らないって……」
「彼女は、奇跡の病院の医師なのです。ですから安心してくださって大丈夫です」
「き、奇跡の? あれって都市伝説……。もしかして、貴女が?」
「ええ。奇跡の病院の医師です。一応、体中の組織を修復しておきましたけど、どうですか?」
「あー、どこも痛くないです!」
「そうですか。それで、折本せんせー。どうですか?」
「そ、その事に関しては、すぐに院長と話を――。まずは院長室へ向かってください。あとから私も向かいますから」
「はい。それでは、失礼しますね。椚木さん」
「え? で、でも――?」
「もう完治していますが、病院の方と話をしてください。私は、所要がありますから」
患者の対応は折本に任せておけばいいだろう。
どうやら折本は医局の方へ向かったようだし。
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