第426話

「まぁいいか。とりあえず借りていくぞ」

「私はモノでは……」

「とりあえず案内してくれ、田所」

「――は、はい。それでは、すぐに車を用意します」


 田所が諏訪警察署入口まで車を回してくる間に、ハイエースに戻る。


「話はついた。とりあえず、必要なモノを買うから、村瀬は俺が乗る車の後を着いてきてくれ」

「分かりました。ですが……、最高神様と同じ車に乗っているのは……」

「まぁ、最高神って言っても大した奴じゃないから気にしなくていいぞ」

「伊邪那美様ですよね? 伊邪那美様を、大したことないって……」


 何か話を聞いていると泣き言を延々と聞かされそうなので――、


「とりあえず付いてこい」


 ドアを閉めて警察署入口へと戻ると、丁度、車が到着した。


「お待たせしました。桂木警視監。それでは怪我人が収容されている病院まで――」

「その前に、寄ってもらいたいところがある」

「寄ってもらいたいところですか?」

「ああ。ワークマンに寄ってくれ」

「どうしてワークマンに?」

「色々とこっちにも事情がある。深くは詮索しないでくれ」

「分かりました」


 どうやら田所は巡査長らしく、慣れた様子で諏訪市内を走る。

 しばらくして到着したワークマンで、俺は女性用の白衣やスラックスを購入していく。

 そんな様子を、首を傾げながら見ている田所は――、


「それって女性用ですよね?」

「ああ、そうだな」

「何に使われるのですか?」

「色々とな――」


 レジで支払いを済ませたあと、田所の案内で病院に到着する。


「――さて、用意をするか」


 田所を連れてハイエースの中へと入ると、もう限界とばかりにハンドルに持たれかかったまま死にかけている村瀬がいたが、気にせずに――、


「何を買いに行っているのかと思えば、また変なモノを――」


 俺が手渡した女性用のスラックスと白衣を見て呆れたような表情で俺を見上げてくる伊邪那美。


「伊邪那美。とりあえず、お前は俺のサポートということにするから、それを着てくれ」

「ほう。何か面白いことを考えているようじゃな」

「別に面白くも何ともないがな。村瀬と山崎と田所は、車から出ていてくれ」

「当主様は?」

「旦那は?」

「ほら、俺も変装しないといけないからな。さすがに昼間の病院で力を振るえば顔とか見られていたら大問題になるし顔写真も取られて拡散されたら大事だからな」

「でも、何故に当主様は、女性用の下着から衣服からスラックスに白衣まで用意されているのですか?」

「まぁ変装だ」

「つまり当主様は、女装をされると?」

「そんな感じだな」

「たしかに、当主様は身長は160センチほどと低いですが、さすがに女装で変装というのは厳しいのでは?」

「ふっ――、お目見えしてからのお楽しみだ。それよりも時間がないから、さっさと車の外に出ろ」


 俺の命令に山崎、村瀬、田所が出たあと、車のドアを閉める。


「ふむ……。また何か思いついたようだの。桂木優斗」

「まぁ、色々と俺は特技があるからな」


 異世界で、冒険者ギルドで受けた仕事で後宮に入り込んだ魔物討伐もした事があるが、その時は、かなり完璧な変装で回りからは一切疑われることがなかった。

 それの応用だ。

 自身の肉体を細胞レベルで操作し、筋肉から骨格、遺伝子レベルで女性に変化させる。

 そして、体の内側から外側まで完璧な女性の体に変化させたあと下着と服を着て白衣を羽織る。

 腰まで伸ばした黒髪は遺伝子を操作し白銀の髪へと――、瞳の色も赤く変化させ――、


「どうだ? 完璧な変装だろう?」

「――いや、もう何と言うか……、変装ではないのう。ここまで、するとは……」


 呆れた様子の伊邪那美は、溜息をつくと白衣を着て女医の変装をする。 


「えっと……、本当に桂木優斗さんですよね? どう見ても絶世の美女にしか見えませんけど……、それに胸とかすごく大きいです」

「ふっ。胸の大きさはEカップにしている! その方が、顔を覚えにくいからな」

「あはは……、そうなのですか……」


 パンドーラが、戸惑った表情で、顔を赤くして見てくる。


「まぁな! 俺の変装は完璧だと、言われたことがある」

「お主には、散々、驚かされてきたが……、アホなのことに全力を振っているのう」

「失礼な。ギルドからの依頼に応じて全力で応じるのは冒険者としては当たり前のことだからな」

「桂木さんって、時々、全力で変ですよね」


 パンドーラが失礼なことを言っているが、山崎達を外で待たせておくのもアレだろう。


「とりあえず、これで変装は完璧だ! あとは、奇跡の病院から来た無免許天才外科医ということで、診察すれば問題ない」


 


 


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