第424話
黒塗りのハイエースの後部座席を空け、中へと入ると、後部座席に設置しておいた唯一の椅子に伊邪那美が座っていたが――、
「何だか空気が重いな」
「……と、当主様……、こちらの御方は……」
「どうかしたのか?」
「あの、間違いでなければですが……神様なのでは?」
村瀬が運転手に座ったまま真っ青な顔色で、そう聞いてくる。
「……ん?」
俺は思わず首を傾げる。
それと同じくして伊邪那美も首を傾げる。
俺の後ろに立っていたパンドーラや山崎も何が起きているのか分からず首を傾げる。
全員が首を傾げた。
「ああ、なるほど……。村瀬」
「は、はい!」
俺は人差し指を伊邪那美に向け――、
「こいつは、伊邪那美命だ。偉い神様らしいが、今回、仕事を頼んだから、失礼のないようにな」
「――い!? いざ――伊邪那美命様!? どうして、根源神よりも上の格を持つ――、最上級の神様が、居られるのですか!?」
顔を引き攣らせながら、そんなことを村瀬はのたまう。
「まったく失礼のないようにと注意したのに……」
「まぁ、よいではないか。このような反応は、霊能力を持っている者ならば当然であるからの。幸太郎や、お主が異常なだけなのじゃ」
車内備え付けの冷蔵ケースからお茶を取り出すとキャップを開けて飲み始める伊邪那美。
こいつは自由だな。
「まぁ、山崎って案外、精神的に図太いからな」
「旦那……、正直、旦那だけには誰も言われたくないと思いますよ」
「馬鹿だな。俺ほど細やかな心遣いが出来るガラスのハートを持つ冒険者はいないと思うぞ?」
ビルの横に停めていた車に乗り込みながら言葉を返す。
「あ、パンドーラは助手席に座ってくれ」
「分かりました!」
「旦那、うちらは?」
「男は、適当に床に座っておけ」
「扱いが酷い!」
「――いや、俺も同じだからな」
車内で立て掛けておいたアタッシュケースを横にし、その上に座る。
「村瀬、まずは諏訪警察署に向かってくれ」
「わ、分かりました。それよりも、どうして伊邪那美様が、現世に来られたのですか? 肉体は黄泉にあると伝承ではありますが……」
「肉体は、桂木優斗が作ってくれたからの」
「――なっ!?」
走り出した車が急停止する。
「おい、安全運転」
「当主様っ! 神々の理を無視して肉体を作る行為は重罪に処される可能性があります!」
「誰にだ?」
「神々にです! 天罰が下ります!」
「それなら問題なかろう。それだけの迷惑を将来、被ることになるからのう」
「それは、どういう意味で?」
「秘密じゃ。それよりも早く諏訪に向かわねば救える人間も救えなくなるぞ? 妾としては、どちらでもよいがの」
「とりあえず、今は諏訪警察署に迎え。最優先事項だ」
「……わ、わかりました」
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