第422話
千葉県警察本部の建物から出たあとは、待機させておいた黒のハイエースに乗り込む。
部下の村瀬の運転でライブハウスに到着したあとは、事務所へと直行し、ノックをしたあとドアを開ける。
「旦那。いきなり電話してきてどうかしたんですか?」
「まぁ、よいではないか。幸太郎」
「既に察していたって感じか」
「そうさのう。黄泉に、蟲毒で使われた多くの魂が一度に流れてきたと報告があったからの」
扇を手に、伊邪那美が、真っ直ぐに俺を見てくる。
「――それで、妾に頼みたいというのは黄泉帰りの件じゃな?」
「話が早くて助かる」
俺の力は、あくまでも人体の細胞の活性化と操作。
その根幹にあるのは生物物理学を極致であり、そこには記憶などの媒体は含まれていない。
簡単に言えば、パソコンで言う所のハードは修理できるが、データは修復できないと言えば話は早い。
そして――、そのデータは黄泉の国に存在する。
「まぁ、お主には、これから大いに借りを作るからの。その程度の配慮はやぶさかではないが――」
そこで伊邪那美が言葉を区切ると扇を閉じた。
「人の魂というのは、強度限界というのが、存在する。だから、全てを救うことはできない。それは理解しておくのだ」
「ああ、分かっている」
「あとは輪廻転生もあるからの。すでに輪禍の輪に加わった魂も取り戻すことは叶わない。それでもよいか?」
「ああ。頼む」
「了解した」
ソファーに座っていた伊邪那美は立ち上がる。
「まさか伊邪那美も行く予定なのか?」
「うむ。妾が行かねば、どの魂と肉体の縁が繋がっているかを判別は出来ないであろう?」
「なるほど……」
「それと桂木優斗」
事務所の出口に向かっていた伊邪那美が足を止めると、背中越しに俺の名を呼んでくる。
「あの娘とは距離はとったのか?」
「それは――」
「早くせねば、お主の運命に巻き込むことになりかねないぞ?」
「運命に?」
「そう。それは、桂木優斗、お主自身が一番よく知っていることではないのか?」
「それは……」
「早めに距離を取っておくことじゃな。それと下で待たせている車に乗ればいいのか?」
「ああ……」
答えたところで伊邪那美は事務所から出ていく。
「今一、読めないな」
伊邪那美は、まるで俺と都を引き離したいような印象を受けるが、きっと気のせいだろう。
「旦那。また何か問題に首を突っ込んだんですね」
「山崎、俺を問題児扱いするのはやめてもらおうか」
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