第421話

「桂木警視監、これからはどちらに?」

「自宅に戻って勉強する」


 ハッキリ言わせてもらって、もう3日しかない。

 マジで絶望的。

 無理ゲー。

 溜息が連打で出るレベルだ。


「そうか。それで、今回の依頼料は――」

「必要ないと神谷から連絡行ったはずだが? まぁ、とりあえず貸し一つってことで――、何かあったら力を貸してくれ」

「……分かった。ご協力、感謝する」


 本山と挨拶を交わしたあと、都築と言えば、俺を気持ち悪そうな目で見て来ていた。

 あの目は、異世界でも割とよく遭遇したことがある。

 得体の知れない存在を受け入れられないという表情。

 まぁ、俺は冒険者の中でも異端の存在であったからな。

 そう、考えていると都築が――、


「桂木警視監。今回の騒動で力を貸してくれた事は嬉しく思う。ただ、もう少しやり方を考えて欲しい。タワーマンション建設現場での30体を超えるバラバラな死体に、辛うじて原型を留めている六波羅命宗の施設、さらには1000体を優に越す死体の山と――、正直、しばらくの間は、諏訪警察署は不眠不休で仕事に当たらないといけなくなる」

「そうか。ただし、言っておくが六波羅命宗の施設に関しては、俺は悪くない。さらにタワーマンションの方も俺に喧嘩を売って来た奴が悪いからな」

「……」

「それよりも暴動の件は、どうなったんだ? 警察と自衛隊だけで何とか出来るとは聞いていたが――」

「日本国政府から発砲の許可が下りていたから、国家非常事態宣言ということで対処した。だから暴動を起こした連中からは重傷者は出ているが死人は出ていない」


 おいおい、それって――。


「それって日本国民からは死者が出たように聞こえるんだが?」

「……」


 俺のツッコミに唇を噛みしめる都築。

 まったく――、こういうところが警察らしいというか……、下手に正義感があるというか、悪くはない。

 

「それは……」

「まぁ、仕方ないだろうな。――で、死人は何人出ているんだ?」

「17人だ」

「なるほど……。それを行ったのは」

「察しの通り、中国から来ている実習生と留学生だ。中国共産党の国防動員法により、殺戮者と化した中国人が日本人を襲撃した。死傷者17人、重傷者338人、軽傷者889人だ」

「はぁー」


 思わず溜息が出る。


「どうして、先に言わないんだ。治療をしてくれと」

「――え?」

「だから、どうして治療を依頼してこない?」

「だが、払える予算はない」

「そういえば、そうだったな……」


 かなりがめつく金を要求していたからな。

 この辺は、自業自得とも言えるか。


「あれだ。貸し二つってことで、治療をしてやってもいい」

「君からの貸しは大きそうだ」

「ああ。大いに感謝して享受してくれ」

「でも、何故に君は治療をしてくれるのだ?」

「そうだな。簡単に言えば――、署長の心意気を買ったと言ったところか。神谷」

「分かっています。すぐに厚生省と日本政府に連絡を入れておきます」

「――と、いうことで、本山警視監」

「聞いていた。君の力があれば多くの人命を救うことが出来るだろう。こちらこそ、よろしく頼む」

「ああ、頼まれた。あと、その前に一つ寄りたいところがあるんだが、その前に情報規制を敷いておいてくれないか?」

「情報規制?」

「俺の力が大っぴらになると困るだろう? 日本政府も警察も」

「そうだな。分かった」


 二つ返事で頷いた本山を見て、俺はその場を後にしようとしたところで――。


「桂木警視監、新しい携帯電話です」


 神谷が差し出してきた携帯は、白色のスマートフォンと、黒色の2台のスマートフォン。


「2台?」

「白い方は警察庁の方からの支給品になります。黒い方は、陰陽庁からの支給品です」

「ああ、なるほど。だが、連絡先は同じでは?」

「警察関係者には白い方の電話番号を連絡先として回してあります」

「つまり、黒色は陰陽庁内からのやつか」

「そうなります。それでは、お気をつけて」

「ああ。行ってくる」


 俺は、その場を後にした。

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