第420話
「いっそのこと処分するとかは? 反省していると言う事は、責任を感じていると言う事だろう? だったら――」
「君は、本当に人間なのかね? そんな、ぶっとんだ発想というか思考をする事に私は驚いたのだが……?」
本山が、溜息交じりに、そう呟く。
「本山警視監。彼は、神の力を有しているのです。つまり、神の視点で物事を見て語っている可能性も――」
「ふむ……。私には、到底、そうは見えないが……な」
都築が本山に意見するが、それは一蹴されたようで、
「まぁ、どうするかは俺に聞くのはお門違いじゃないのか? 俺は、あんたら長野県警からの依頼を受けて、それを遂行したに過ぎないからな。あとの対応については、アンタたち長野県警で決めればいいと思うぞ」
「まぁ、そうだな……」
どうやら、本山も最初から俺からの意見は期待していなかったようだ。
「それじゃ、その六波羅命宗の教祖様って奴を拷問できる程度に修復しておくか。モノは、諏訪警察署にあるのか?」
「……ご、拷問って――。もう少し言い方はあるんじゃないのか? 桂木警視監」
「悪いな、都築警視正。情報を聞き出すのは拷問が一番手っ取り早くて正確だと俺は思っているからな」
少なくとも異世界ではそうだったし。
「桂木警視監。辻本守容疑者は、既に、こちらに連行してきている。今は、千葉県警察本部地下の拘留所に居る」
「――なら、体の修復はすぐだな」
諏訪警察署まで出向く必要がないのは正直助かった。
「それじゃ時間ももったいないし、すぐに体を治しにいくか」
俺が立ち上がると都築と本山も同じくソファーから立ち上がる。
「それでは、桂木警視監」
「どうした? 神谷」
「拘留所まで、私が案内します。桂木警視監は、千葉県警察本部の設備など熟知はされては――」
「そうだな」
まぁ、波動結界を使えば教祖ってやつの居場所は一瞬で特定することは可能だが、俺の能力を知られるのは、極力避けておいた方がいいだろう。
神谷の案内で、エレベータ―を使い地下へと降りたあと、地下2階の拘留所で、両手足を切断されて達磨状態になっている男を発見。
「たしか辻本守だったか」
そんな名前を本山は口走っていたと記憶している。
「ああ。治せるか?」
「治せるから、この状態にしてある」
俺の姿を見た辻本は、顔を青くして藻掻くが、両手足が無いから逃げることもできない。
そんな辻本に近づき、額に触れる。
「どこまで治せばいいんだ?」
「出来れば完全に治療してくれ。取り調べのコンプライアンスが煩いからな」
「分かった」
まぁ、俺としては両手足を切断したまま拷問した方が情報を聞き出しやすいと思うんだが、クライアントが、そう言うのなら仕方ない。
辻本の両手足の包帯を解いたあと、肉体の再生を行う。
10秒ほどで完全な状態に戻すと――、
「ひっ! ひぃいいい。――ば、化け物っ!?」
「本当に、治療できるのか……」
「何と言う……」
若干、一人だけ叫びながら拘留所の隅に這いずり逃げて体を震わせている奴がいるが、まあ、それはどうでもいいとして――、
「それじゃ、これで問題ないな?」
「ああ。あとは長野県警の方で対処させてもらおう」
「そういえば、保護した人達はどうなっているんだ?」
都の親父も、その中に含まれていたからな。
「あと数日は身体検査と精神科医との対談がある。それが終わったら、今回の事件に関して口を噤んでもらう約束を取り交わしたあと、帰宅してもらうという形になる」
「なるほど……」
まぁ、ありえない事に関して吹聴されて拡散されるのは日本政府としても避けたいらしいからな。
契約書を交わすというのは、合理的ではあるよな。
俺なら記憶を消去するが。
本山の話に頷きながらも、俺は通路を挟んだ反対側の拘留所に座っている女を見た。
そいつは、俺が生かした女で、何も映さない瞳で、真っ直ぐに、辻本を見つめていて――、
「(なるほど……な……、どうりで大人しく捕まったわけだ)」
そう心の中で俺は呟いた。
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