第419話

「遅くなった」


 そう言いながら部屋の中へと入ると、神谷以外には、二人の男がソファーに座って寛いでいた。

 一人は諏訪警察署の署長の都築。

 もう一人は、知らない奴だな。


「桂木警視監。本日、桂木警視監にお会いしたいというお二方です。おひとりは、諏訪警察署の署長の都築(つづき) 和樹(かずき)警視正です。もう一方は――、」

「それは私の方から自己紹介させてもらおう。初めまして――、長野県警本部長の本山(もとやま) 樹(いつき)という」

 

 相手から自己紹介してきたのだから、俺の方も自己紹介するべきか。


「日本国政府 内閣府直轄特殊遊撃隊所属、桂木優斗だ」

「ふむ……」


 男は、都築の方へと視線を向けたあと、俺をジロジロと見てくる。


「本当に若いな。年齢は16歳と聞いているが……」

「それが何か?」

「――いや。神の力を有している人間なのだから年齢は関係ないと言ったところか」


 本山から話を聞きながら、俺はテーブルを挟んだ向かい側のソファーへと腰を下ろす。

 そして、すぐに神谷が3人分のコーヒーを淹れてテーブルの上に置き距離を取った。


「それが何か問題でもあるのか?」

「いや、とくに能力的には問題ない。君の活躍は動画で見させてもらった。テロや軍相手には、過剰とも言えるほどの戦闘力だが、そのことに関して、長野県警から何か言うような事はない」

「そうなのか? 神谷が長野県警がクレームを入れてきたと電話してきたが?」


 俺の返しに、本山は両手を組むと、


「まぁ、いくつかお願いがあると言ったところだな」

「お願い?」

「ああ。まずは容疑者の体の再生をお願いできないか? 事情聴取しようにも、舌が無い状態では会話にならない」

「あー」


 そういえば、六波羅命宗の偉い奴を生かして捉えたが、両手両足を斬り落として、舌を抜いたあとは放置していたな。


「分かった。その点に関しては、此方の不注意だった。すぐに体の再生を行うことは約束しよう」

「それは助かる。一緒に連れてきているから、あとでよろしく頼む」

「仕事の範疇だから気にしないでくれ。それよりも、女の方は事情聴取は出来たのか?」

「一応できたが……」


 苦々しい表情を見せる本山は、


「正直、600年以上は生きている人間を裁く法が無い事に苦慮している。本人は、罪の自覚と意識はあるから、事件の概要やあらましは語ってくれたが、正直言って刑事事件での告訴はできない。日本政府の意向で、一般市民には、怪奇現象や超常現象というのは存在しないという方向で社会は作られているからな。そして、それは世界共通。だから、戸籍上、数百年前の人間が生きているなんて知られたら大問題になりかねない」

「だから、犯人として捕まえることはできないと?」

「正確に言うなら、犯人ではなく容疑者だな」

「ほう……」


 犯人と容疑者の区別がよく分からんな。


「桂木警視監。犯人といういのは、罪を犯した犯罪者のことです。そして、今回の女性に関しては、有罪が確定していないため、被疑者もしくは容疑者と言います。今回の場合は、裁判所を通す事が出来ないため、容疑者扱いになります」

「なるほど……」


 神谷が、補足をしてくる。

 しかし面倒な言い回しが多くてこまるな。


「つまり、犯罪者なのは確定だが、表立って裁判にかける事もできないから対応に苦慮しているってことか?」

「そうなる。まぁ、あと数日は事情聴取を行うことになるから、それまでは、問題はないが、こちらとしても彼女の身柄を今後どうするのか正直困っている」




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