第415話

 ――1時間後。


 六波羅命宗の施設が存在していた場所へ、上空から降り立ったところで、既に俺の接近に気が付いていたのか村瀬が車から出来る。


「お待ちしていました。当主様」

「ああ、ただいま」

「それで守備の方は?」

「上々と言ったところだな」

「場所については?」

「まぁ、空母は大きいからな。2メートルほどの大きさのモノなら木箱に詰めて資材置き場に配達してきておいた」

「そうでしたか。それでは、これからは……」

「そういえば、保護した失踪者の姿が見えなかったが、警察が来たのか?」

「はい。諏訪警察署の捜査員の方々が、保護していきました」

「なるほど。それじゃ問題ないな」

「それと諏訪警察署の都築署長から連絡がありました。回収した中性子爆弾の扱いですが、陸上自衛隊に渡すようにと」

「それには答えられないな。俺は処理をするように命じられただけで、どう処理をするかの依頼は無かったからな」


 そう答えながら、モノクロの電源を入れて車に積んであるサーバーと、諏訪警察署の対策室とのパソコンのリンクを確立させる。


「俺だ。桂木だ」

「『都築だ……。君は! いきなり電源を切って! どういうつもりかね!』」

「通信状況が悪かっただけだ。――で、村瀬に連絡してきたようだが、何か問題でもあったのか?」

「『あったも何も! 君は、中性子爆弾をどうしたんだね!』」

「だから返してきたと言っただろう? 落とし物は落とし主に返さないといけないからな。それより、俺が保護した人達は全員、諏訪警察署で保護できたのか?」

「『……あ、ああ。その点に関しては君に感謝しよう』」

「別に気にする必要はないぞ? 俺は長野県警からの依頼を受けただけだからな」

「『それより中性子爆弾は、どこに返したのだね!』」

「それは企業秘密だ」


 執拗に情報を引き出そうとして来ると言う事は、最悪の状況を想定して中性子爆弾の場所を中国にリークしようという腹なのだろう。

 だが、そんなことに応じるほど、俺は甘くない。

 人様の庭で、核を爆発させようとしたのだからな。

 撃っていいのは撃たれる覚悟のある奴だ。

 それ以外は、おれは認めない。


「証拠の人材――、桔梗と教祖だったか? そいつらは自由に取り調べてくれ。俺は帰るから、後は、任せたぞ」

「『――お、おい! ちょっと待ちなさい!』」


 モノクロの電源を切ったあと――、


「村瀬。そろそろ急いで帰らないと間に合わないから、あとのことは神谷とお前に一任する」

「当主様。間に合わないとは?」

「決まっているだろ。夕食に間に合わないと妹に怒られるからな。最近は、小言が増えて本当に困っているところだ」


 俺は肩を竦めながら溜息をつきつつ村瀬に答える。


「――そ、そうですか。分かりました。――では、装備品などは……」

「全部、車に載せていく。あと、これを――」


 俺は、SIMカードを抜きスマートフォンだけを村瀬に返す。


「助かった」

「いえ。給料に反映してもらえればそれでいいです」

「分かった分かった。労働には対価で応じるから期待してくれ」

「分かりました。それでは神谷警視長とも連絡を取り、後始末をしておきます」

「任せたぞ」


 装備を外し車に載せたあと、身体強化を行い空へと舞い上がったあと、自宅へ向けて急いだ。



 ――1時間後、すっかり日が暮れた公団住宅に到着した俺は、階段をあがり自宅のドアを開ける。


「お兄ちゃん、遅い!」

「少し遅れたか?」

「いっぱい遅れたの!」

「悪い悪い。それよりも夕食は何なんだ?」

「今日は、エリカちゃんがカレーを作ったの!」


 少しお怒り気味な妹が、誇らしげに語ってきた。




 

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