第410話 第三者side
諏訪湖南――、諏訪湖スタジアム近くに建設途中のタワーマンション、諏訪市マリンビルには、20台を超えるパトカーと、覆面パトカーが到着していた。
「立花警視監! 捜査員30人の配備が完了しました。いつでも突撃が可能です」
「よし。相手は、中国政府からのスパイ、広瀬隆文警部補だ」
「それにしても、こんなに捜査員が必要なのでしょうか?」
「何かがあってからでは困るからな。とくに、今回は、失態続きなのだ。確実に捕まえるようにしろ」
そう立花が語りながらも、彼らが目視しているタワーマンションは恐ろしいほどの静寂に包まれていた。
続いて――、
「捜査員は全員、拳銃を携帯するように、命令が下りるまでの発砲は禁止する。まずは話し合いで相手に投降を促すように。それでは、突撃!」
拳銃を携帯したまま、タワーマンションの敷地内に走っていく捜査員たち。
それをタワーマンションの上層階層を見回っていた中国人民共和国の特殊部隊『朱雀』の面々は、舌なめずりしながら見下ろしていた。
「大隊長。こちら30階。警察が、此方に気が付いたようだが、どうする?」
兵士が、スナイパーライフルのスコープを覗き込みながら、広瀬 隆文警部補(ユーリー・チェン)に指示を仰ぐ。
「相手は何人だ?」
「全部で31人だな。どうする?」
「少し待て」
チェンは、待機するように命令をすると、爆弾を設置していた兵士に近づく。
「あと、どのくらいで設置が終わる?」
「あと5分ってところだな」
「分かった。聞いていたな? お前達。爆弾を起爆セットしてから5分後に、屋上からヘリで撤収する。10分間、公安に本当のプロの戦闘ってモノを見せてやれ」
チェンの命令と同時に、中国人民共和国の特殊部隊の面々が、戦闘行動に移る。
そして複数の発砲音と同時にタワーマンションに突撃しようとしていた捜査員の頭を吹き飛ばす。
頭をライフル弾で狙撃され周囲に脳漿と血を撒き散らしながら、倒れ込む捜査員。
それを近くで見ていた捜査員たちが一瞬硬直する。
「はっ! 素人が!」
次弾を装填した中国軍兵士が、スコープの覗き込みながら、スナイパーライフルの銃口を、立ち尽くしている捜査員へと向けてトリガーを引く。
銃弾は、正確無比に立ち尽くしていた3人の捜査員の命を奪う。
「――ち、散れ! ――て、敵は複数だ! 物陰に隠れろ」
何が起きたのか分からないまま、立花はそれでも捜査員全員に命令する。
彼も、拳銃を片手に近くの木材が大量に積んでいた資材置き場に身体を隠す。
「い、一体……何が起きた?」
まず立花警視監の脳裏に浮かんだのは、その言葉であった。
「立花警視監! 応戦の許可を!」
「馬鹿を言うな! まずは話し合いだ!」
「――で、ですが! すでに相手は重火器を――」
「ふざけるな! ここで拳銃を発砲してみろ! 私の昇進がどうなってもいいのか! 叩かれるのは、現場の指揮をしている私なんだぞ!」
何が起きたのか分からない立花は頭を抱える。
「なんなんだ……。一体、なんなんだ……。ありえない。こんなことはありえない」
「立花警視監! 相手はスナイパーライフルを所持しています! 我々の装備だけでは、歯が立ちません! 自衛隊か、桂木警視監に応援要請を!」
矢継ぎ早にインカムを通して入ってくる報告。
そして――、唐突の爆発音。
立花が隠れていた資材置き場近くが、いきなり爆発したのであった。
それは中国の特殊部隊がタワーマンション上層部から投げた手榴弾の爆発音であった。
「立花警視監! 捜査員が2名負傷! このままでは、どうにもなりません! 応戦許可を!」
「駄目だと言っているだろう! まずは上に許可をとって……」
「それでは、拳銃携帯の意味が!」
「だから! 拳銃を発砲する許可を――」
「このままでは全滅します!」
「そ、そうだ。ま、まずは威嚇射撃を! そうだ。威嚇射撃なら許可する!」
「相手は、スナイパーライフルと手榴弾で武装しています。しかも発砲音から見て複数人いると考えられます。もしかしたら玄武の残りかも知れません!」
「憶測で物事を語るな! まずは、威嚇射撃してから、話し合いだ。それがいい!」
「立花警視監。すでに、こちらは死傷者が出ています。応戦に伴い撤退が最良かと進言します」
「だから! ここは、私が指揮していると言っているだろうが! 私は本部長だぞ! 命令を聞け!(なんで、こんなことになっているんだ? 訳が分からない。くそっ! このままでは、私の公安の中での立場も危うくなりかねない)」
まるで反撃をしてこない立花警視監率いる公安を、スナイパーライフルのスコープを通して見ていた中国人民共和国の兵士は怪訝な表情をする。
「こちら30階。警察の連中だが、物陰に隠れたまま応戦もしてこないぞ? どうなっているんだ? 何か作戦をしているのか? 大隊長、どうしますか?」
「ほう……」
チェンは、タワーマンションの屋上から、スコープを通して公安の面子を見ていく。
「なるほど……。各階フロアに告げる。そのまま釘付けにしておけばいい。動きがあるようなら威嚇射撃だけで十分だ。相手は、実戦経験もないオムツも取れてない勉強だけが取り柄のおぼっちゃんだ」
その命令に、兵士達は溜息をつく。
そして兵士達は、楽な防衛だと高を括ったところで――、タワーマンションの資材置き場で何かが爆発する。
「何だ? 誰か手榴弾でも投げたのか? 威嚇射撃だけで十分だと言っただろうが!」
「――いえ。誰も射撃も手榴弾の投擲も行っていません!」
「こちらも何も――」
「32階も手を出していません」
矢継ぎ早に入ってくる報告にチェンは眉間に皺を寄せ乍ら、資材置き場をライフルのスコープで注視するが――、立ち上っていた煙が唐突に晴れる。
そこには、諏訪湖から音速で移動してきた桂木優斗の姿があった。
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