第403話 第三者side
――日本海洋上。
日本海の接続水域には空母一隻、ミサイル駆逐艦2隻が浮かんでいた。
空母と駆逐艦は中国軍のモノであった。
中国人民共和国が誇る最新鋭空母『山東』の作戦指揮室では、一人の男が椅子に腰を下ろし、ワインを嗜んでいた。
そんな男に対して、作戦指揮室に入ってきた40代と思わしき男は敬礼をすると――、
「子轩(ズーシュエン)少佐、同士から連絡がありました。処理は終わったとのことです」
「さすがは朱雀の部隊を率いている部隊長と言ったところですか」
丁寧に言葉を返したズーシュエンは、ワイングラスをテーブルの上に置くと足を組む。
「それと太陽作戦を決行するとのことです」
「そうですか。――で、例のことは教えてはいませんね?」
「はっ! あくまでも広範囲の――、殺傷能力の高い爆弾としか……」
「それでよろしいです。それと、日本政府は、どう動いていますか?」
「松本駐屯地から自衛隊を派遣したようです」
「ふむ。概ね、こちらの作戦通りことが進んでいるという事ですね」
「はい。それとですが……総書記からは何もなかったようにとのことです」
「なるほど……」
そう短くズーシュエンは返事をすると思考する。
男の頭の中では、今回の諏訪市の市民を同胞の中国人ごと中性子爆弾で殺戮することは、最初の想定どおりであったが、一つ懸念があったのだ。
「それと、こちらが同胞から送られてきた情報になります」
兵士から資料を渡されたズーシュエンは、目を通していき笑みを浮かべる。
「なるほど、なるほど……」
「どういたしますか?」
「どうするとは?」
「我が偉大なる中華人民共和国の軍事衛星が捉えた映像です。諏訪市には桂木優斗が居るという報告があります。総書記も桂木優斗を勧誘したいとの意向があり――」
そこまで兵士が語ったところで、兵士は顔色を青くする。
「何を血迷ったことを……。桂木優斗と言っても、所詮は、ただの神の力を有しているだけの力任せの馬鹿でしょう? この資料を見てみなさい。このテスト結果を! 数学と物理関係に関しては、満点ですが、それは所詮は高校生程度の――、お遊び程度のモノ」
ズーシュエンは、額に手を当てると深く溜息をつく。
「良いですか? この私は、IQ220の超天才! そして、諏訪市全域全てを、手中に収めたプログラムを組んだ男なのですよ? そんな天才の私が、どうして馬鹿の代名詞のような男に恐れなくてはいけないのですか?」
「――で、ですが……」
「分かっています。私の計算は完璧! そう! パーフェクトなのです! すでに、桂木優斗というスペック――能力と性能は、この!」
ズーシュエンが、自身の後ろに並んでいる機械を兵士に見せつけるかのように立ち上がる。
「最新鋭の戦術スーパーコンピューターにより、丸裸にされているのですっ! つまり、桂木優斗の力は、既に計算で求められているのですよ?」
「……ですが、まだ力を隠しているという可能性も……」
「分かってないですね。私の天才的な頭脳が、桂木優斗の能力の上限を数式で! この最新鋭戦術スーパーコンピューターが把握しているということを! 何よりあれば馬鹿なのですよ? 私の作戦が失敗する可能性は万が一もありません!」
そこまで話したところで、ズーシュエンは内心では怒りを露わにしていた。
奇跡の病院――、その言葉の意味。
全ての病を治す力を有している桂木優斗に対して、憎しみを抱いていた。
何の努力も、何の苦労も、何の挫折もせずに、平和に暮らしてきただけの人間が神の力を手に入れて、総書記にまで気を掛けられている事に対して。
「分かりました。では、朱雀には、作戦続行ということで伝えてきます」
「頼みましたよ?」
「はっ!」
作戦会議室から出ていった部下に対して、ズーシュエンは、
「まったく、これだから馬鹿は使い物にならないんですよ」
そう毒を吐くと、資料をライターで燃やす。
「総書記には悪いですが、死んでもらわないと私の立場が危うくなりますからね。まぁ、すでに桂木優斗の最大能力は判明していますから、いつでも殺せますが――」
そこまで口を開いたところで――、
「今回は丁度いいので、中性子爆弾で桂木優斗を抹殺するのが一番良いでしょう。それに気が付かれたところで、馬鹿には絶対に解けないようにしていますからね」
そして高笑いをするズーシュエンは、作戦会議室の窓から、長野県の存在する方へと視線を向けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます