第398話

 巨竜が、その巨体で潰した強化ガラスと鉄筋の部屋の残骸へと近づく。

 肉体を強化し、圧し潰された塊を無理矢理剥がしていく。

 すると磨り潰されタンパク質の塊となった人間の成れの果てが見えた。

 タンパク質となった肉の塊から真っ赤に染まった白衣を剥がし、俺は女の元へと戻る。


「女。裸のままだと風邪を引くからな。それでも羽織っておけ」


 本来なら敵となった奴に対して配慮するつもりは一切ないが、今回は依頼だから容疑者を管理するのも俺の仕事の一つ。

 裸体のままだと色々と不都合があると思い、俺は血で真っ赤に染まった白衣の成れの果てを手渡すが――、微妙な顔で女は俺を見てくる。


「何だ? 何か、問題でもあるのか?」

「――いえ」

「まったく――。言いたい事があれば、ハッキリ言ってくれ。こちらとしても、不満があるのなら言ってくれれば――」

「それでしたら、私を殺して――」

「それは無理だな」

「…………あの」

「何だ?」

「今、言いたいことがあれば言えと――」

「ああ。言ってもいいが、俺が許可するかどうかは別問題だからな。そして言われても考えることを考慮はするだけだ」

「それって、言っても意味ないのでは?」

「そうとも言うな」

「それと、この服……」


 血に染まっている白衣を、これ見よがしに俺に見せてくる。


「女。感謝する必要はない。自分の所有物の健康管理も冒険者の嗜みって奴だからな」

「――あ、はい……」


 何を諦めたような顔をして頷いているんだ?

 こっちは、服まで用意したというのに……、我儘な奴だな。殺されてないだけマシだと思ってくれないと困るぞ。


「俺は、怪我人の治療をしてくるから、お前は此処にいろよ?」

「――え? あ、はい」


 時々、物思いに耽る素振りを見せる女に、俺は溜息をつく。


「あの……」

「まだ何かあるのか?」

「……私は、女とかお前とかでなくて……、天野(あまの) 桔梗(ききょう)と言います。名前で呼んだ方が分かりやすいと思いますが……」

「ふむ……」


 たしかに、『女』とか『お前』とかだと区別がつき難いか。


「分かった。桔梗」

「はい」

「此処で待って居ろ。逃げたら四肢を斬りとって達磨にして運ぶからな」

「…………」


 俺の提案に桔梗が無言で首を縦に振った。




 都の親父さんがいる建物に到着したところで、自身が壁に開けた穴から中に入る。

 すると、そこには体を震わす失踪者達の姿が。


「おほん」


 俺は失踪者を安心させるように一度、わざとらしく咳をしたあと――、


「千葉県警察本部に所属する桂木優斗と言う。長野県警からの応援要請で失踪者の探索と保護を頼まれた。もう安心していい。君達の身の安全は、俺が約束しよう」


 警察手帳を見せながら失踪者達に話しかけるが、誰も俺と目を合わせようとしない。

 そりゃそうだ。

 目の前で、魔物に同族である人間を喰われた光景を見ていたわけだからな。

 その恐怖からか、救いの手を信用できないのも理解はできる。


「あ、あんた……人間なのか?」


 失踪者の内の一人が、そんなことを聞いてくる。

 失礼なやつだな。

 どこからどう見ても、俺は人間にしか見えないはずだが? むしろ、人間以外の何に見えているというのだ。


「ああ。警察関係者だが、一応は立派な男子高校生で、一般人だ!」


 俺の言葉に、都の親父含めて全員が無言。

 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る