第397話 第三者side
――首相官邸
時間は、桂木優斗が六波羅命宗の施設内で戦いを始めた時まで戻る。
その時間、急遽、閣僚が首相官邸の閣議室に集められていた。
理由は――、
「夏目総理。先ほど、お伝えした通り――」
と、切り出したのは、第99代 日本国首相の夏目一元の秘書官であった。
「うむ。もう一度、説明してくれたまえ」
「はい。それでは、現在、長野県諏訪市全域にファイアーセールが行われています。確認できたのは30分前ですが、最初に諏訪市全域の道路の内における全ての信号機が何者かの手により一斉にシステムがダウンしました。そのあと、コンビニや金融機関のATMの停止。通信機器やガス・電気・水道設備のシステムの停止により、諏訪市内との連絡が途絶しています」
その秘書官の言葉に、閣議室に集まった閣僚たちの表情が強張る。
そして――、夏目総理は口を開く。
「聞いての通りだ。現在、何者かによる破壊工作、テロ行為により諏訪市内の市民の安否が危険に晒されている状態だ。すでに松本駐屯地から諏訪市内に向けて自衛隊を向かわせている」
その言葉に、閣僚たちが顔を見合わせ――、
「総理」
そう短く発言したのは、日本国の防衛大臣である小野平であり、全員の視線が一斉に向けられた。
「これは、例の件と類似しているかと思います」
「私も、そう思う。だからこそ、自衛隊を向かわせている」
二人の話を聞いていた外務大臣の川野拓郎。
「ファイアーセールが行われた……」
と小さく呟くと共に、ハッ! と、した表情を浮かべると共に――、
「総理! ――ま、まさか! 東トルキスタンで中国政府が行った例の――!」
「ああ。2年前に中性子爆弾によるデモ隊の殲滅――、ウイグル人の大虐殺。それと同じことが、諏訪市で行われる可能性が非常に高い」
その夏目総理の言葉に、静まり返る閣議室。
「そ、それでは、すぐに住民の安全のために避難――あっ!?」
そこまで言いかけたところで川野外務大臣は気が付く。
気が付いてしまった。
「それでファイアーセール……」
「うむ。おそらく一ヵ月前から起きている断続的な失踪事件が関与している可能性が非常に高いというのが、警視庁公安部からの見解として上がってきている。すでに通信が途絶する前に完全武装した中国人民軍の部隊と、山間部で警察が交戦したという情報も上がってきている」
「こちらになります」
夏目が目配せすると秘書官が閣議室のスクリーンに映像を移す。
そこには、桂木優斗と交戦した中国人民軍の武装などが表示されていて――、
「諏訪市警察署からの情報によれば、中国人民軍の『玄武』という部隊だという事が判明しています」
ざわつく閣議室。
「まさか、中国人民軍の兵士までもが入り込んでいるとは……しかし、武装は一体、どこから?」
困惑する川野外務大臣の言葉に答えるかのように秘書官が資料をスクリーンに投影する。
「3か月前から、内偵しておりました警視庁公安部の情報からによりますと、日本海側に接岸され放置されていた国籍不明の船舶が確認できています」
「つまり、不法侵入者ということか?」
「はい。公安からは、長野県警と諏訪警察署に捜査協力依頼を行い、警察関係者の中に協力者が居ないかを調べていたようです」
「ということは、警察関係者の中に中国のスパイが居るということか?」
「資料によりますと正確には警察関係者の中にもと報告が上がってきています」
「警察以外にもということか?」
「川野外務大臣」
「何か? 山川農林水産大臣」
「川野外務大臣は、中国政府の国民動員法を知っているか?」
その山川農林水産大臣の問いかけに、川野外務大臣は『そういうことか』と、唇を噛みしめる。
それは、つまり中国政府が国民動員法を使い中国人全員に一斉に諏訪市のインフラ破壊の実行命令をしたと言う事。
「だから総理は、自衛隊を――」
「ああ。すでに発砲の許可は出している。それよりも問題は、国民動員法により暴徒と化した可能性のある中国人ではなく、中性子爆弾の方だ。ウイグルで使われた大量虐殺兵器が、本当に使われた場合、その被害は、諏訪市全域に及ぶ。考えたくもない犠牲者の数だが、最低でも5万人、最大で10万人近くまでと想定されるとのことだ」
日本国総理大臣の苦悶に満ちた言葉に静まり返るが――、
「ただ一つだけ希望がある。諏訪市には、神から力を授かった桂木優斗が滞在しているとのことだ」
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