第396話

「やりすぎたか……」


 俺は、『天蓋雷装』を解除しながら、消し飛ばした天井の岩盤――、その穴から射し込んでくる光を見ながら呟く。

 今、俺が出せる全力全開の力である『天蓋雷装』は、本来であるなら、超常的な力を有する女神を殺す為に作った技の一つではあったが――、


 立ち眩みし、地面に膝をつく。

 体の細胞が死滅していく中で、俺は体内の細胞を高速増殖させることで拮抗させる。


「全盛期の3%の力だと扱いきれないか……」


 魔王軍の幹部と戦った時に、おそらく使用したであろう『雷装天外』の下位の技なら、何とか扱い切れると思ったが、わずか数秒の発動で力が尽きるとは思わなかった。


「自分で思っていたよりも遥かに弱体化しているな」


 呼吸を整えた所で、俺は立ち上がる。

 そして、都の親父たちがいる場所へと向かおうとしたところで足を止める。


「――ちっ」


 思わず舌打ちする。

 俺は、視界に入った女を見て近づく。


「やっぱり思っていた以上に力が衰えているな。消し飛ばし残しがあるとは、俺らしくもない」


 倒れている半裸の女の体は、半分ほどが消し飛んでいて、顔を残して体は炭化しているが、生命反応はある。

 もう蝋燭が消える間際の、ほんの少しと言っていい程のモノであったが――、

 女の体から感じるのは、福音の箱と同じような呪いだけ。

 それも消えかけている呪い。


「……わ、わたし……」

「まだ意識があるのか? ――いや、意識が浮上したと言った方がいいのか?」


 戦闘中に、感じた違和感。

 それは異世界で、時々、感じたモノだった。

 一言で言うのなら、精神汚染されている気配。

 異世界では、バンシーや死霊に精神汚染されている人間がいたるところに転がっていたから分かったことだが――、まぁ俺に攻撃仕掛けて来た時点で問答無用で殺すことは確定していたがな。


「……もう……だれかをころさなくて……よくなった……の……です……ね……」

「その様子からすると誰かに命令されていたって事か?」


 俺の問いかけに、微笑む女。

 それが答えだと言う事だろう。

 異世界ではよくあったことだ。


「……おねがい……が……ありま……す……」

「願い?」

「…………はい。わた……し……を………ころして……く……だ……さ……い……」

「ふむ」


 俺は女の体に触れる。

 そして女の遺伝子情報を読み取る。

 一部、混在している変な遺伝子情報があるが、それを魔物特有の器の特徴。

 その器を取り除いて減数分裂を有する人間の遺伝子を抽出確認する。

 

「なるほど……」


 これなら、問題ないな。

 俺は呪いを全て回収し、混ざっていたラミアの部分を細胞内に取り込むと同時に、女の肉体を再生――、修復する。


「よし、これで問題ないな」

「……これ……で……わ、私は――って……え?」


 先ほどまで生き絶え絶えの声で話していた女が、ハッ! と、した表情をすると上半身を起こすと自身の――、再生された裸体をペタペタと触ったあと俺をキッ! と、睨んでくる。


「――な、何をしたのですか? ――ど、どうして……、私を殺さなかったのですか? 哀れみですか!」


 俺は左右に頭を振るう。

 そんな気は毛頭ない。


「いや、報告書を書くの面倒だから」

「――え?」


 俺の言葉に固まる女。


「ほら、容疑者と被害者と実行犯をセットでクライアントに提出した方が楽だろ? それに、お前のラミアとしての能力は全部、俺が喰らったし。それに、誰かを傷つけるつもりはないんだろう?」


 溜息をつきながら、俺は答える。


「あの……、え? ――ちょ、ちょっと待ってください? 私、死にたいって言いましたよね? お願いしましたよね?」

「それが何か? 俺は、お前のお願いを聞く気はないし、そもそも、俺は勝者であり、お前は敗者だ。敗者が勝者に何かを頼むなんておかしいだろ? つまり、お前は、俺の所有物ってことだ。理解したか?」


 俺の完璧なまでの正論に俯く女。

 

「――さて、とりあえず地上に戻るとするか」


 とりあえず、これで依頼は完了だな。

 あとの捜査については、長野県警と諏訪警察署の署長に押し付けておけば、お互いWIN-WINって感じで、貸しも作ることが出来ると――。


 



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