第392話 第三者side
同種とも言える存在。
それに気が付いたのは本能と言っていいのかも知れない。
気が付けば、私の身体は、動いていた。
施設を抜け出し、一人、一糸まとわぬ姿で森の中を駆けていた。
近づけば近づくほど分かる。
それが、私に近い存在だということが。
それは、私を取り込んだ化け物の本能だったのだろう。
だからこそ、私の身体は、その場所へとたどり着いた。
そして――、私は、俯瞰的な視点で、目の前の少年を見ていた。
少年は、10代半ばと言った感じであった。
私が生きていた戦国時代では、既に元服していた年頃ではあったけれど、長く生きて存在していた、この時代では親の庇護対象と呼べる様相であった。
目の前の少年。
見た目は、体の線が細く、頼りない子供に見えた。
だけど、私はすぐに察してしまう。
少年の中に内包されている恐ろしいまでの闇に――。
飢餓や疫病が蔓延していた戦国時代であっても、疫病や呪いと言った神を見て来た私でも見た事が無い程の呪いを内包した存在。
そして――、私は理解してしまった。
目の前の少年は、私と同じ存在だということを。
だからこそ、私の中の蟲毒で作られた蛇は、同じ蟲毒の存在である少年を感じて近づいたのだということも実感した。
そんなことを考えながらも、神たる器として利用されるために作られた私は、ぼんやりと、化け物と化した自身の体を呪いながら、私自身の意思では、どうもできない現状に絶望しながらも――、それでも辛うじて――、
「……に、逃げて……」
目の前の少年が内包している闇は、私が感じられるだけでも恐怖を覚えるレベルのモノ。
それでも、戦闘という面から見れば私が大蛇と化した時と比べてれば些末なモノに思えた。
だからこそ、私に喰われて地獄のような苦しみを味わうくらいならと、私は辛うじて――、口にすることは出来た。
だけど、私の中に植え付けられた憎しみや妬み、恐怖や絶望と言った600年以上蓄積された負の感情は、目の前の御馳走を喰らうことを優先し――、
「早く――、力が――、意識が――」
辛うじて喋れた体の主導権は一瞬で奪われた。
巨大化していく自身の肉体を――、どうしようもできない神の器として作られた化け物と化していく体を呪いながら――、心の中で「逃げて!」と叫びながら、私は必死に声にならない言葉を心の中で描く。
――そして、一瞬で巨大な化け物と化した私の肉塊は、刃物すら通さない強靭な鱗を纏い、その巨大な尾を少年に向けて横薙ぎするかのように振るった。
私は思わず目を閉じた。
普通の人間なら肉塊になる。
どんなに闇を内包してても、どんなに呪物として――、恐怖を感じるモノだったとしても、それは肉体の強度とは――、戦闘とは一切関係ないから。
だけど――、次の瞬間、私は意識が浮上する感覚を覚えた。
気が付けば呪いの中心部だった大蛇の脳が吹き飛ばされる感覚を味わったから。
信じられなかった。
神の器として作られた化け物である私の身体を、易々と破壊していく、その力が――、その姿を見て私は希望を抱いてしまった。
少年なら――、彼なら――、私を……、数百年の地獄に囚われた私を殺してくれるのだろうと。
そこまで考えたところで、私は、少年に蹴られ吹き飛ばされ――、意識を失った。
「くそっ! どういうことだ! どうして動かない!」
気が付けば、私の目の前には、醜悪は存在がいた。
それは、私を動かそうと水晶玉たる呪物を手にして命令のための真言を紡いでいた。
だけど、私の身体は、命令を受諾せずに一切の反応を示すことはなかった。
それと同時に、私の身体の中の呪いが殆ど消えている事に気が付いた。
どうして? と、思う反面、自身の体が化け物と化さない事実に心の中で安堵していると、男は血走った眼で、私の口を無理矢理抉じ開けてきた。
「もう、いい! 化け物っ! 命令だ! 今から来る神社庁の化物を、今から開ける通路に居る生贄を喰らって殺せ!」
「……いや……、もう……、やめて……。もう、誰も殺したくない……」
絞り出すように呟いた弱々しい声。
途端に、般若のような様相をした男は――、
「煩いっ! この化け物が! お前は、この腐った国を救う為に――、我々が作った化け物だ! 生殺与奪の権利は、私にある! お前は、言う事を聞いていればいいんだよ!」
と、言葉を叩きつけるようにしてきて無理矢理、私に水晶玉を呑ませる。
水晶玉には1000年分の、六波羅命宗の呪いが封じ込められていて――、私の心と感情を一瞬にして闇で塗りつぶしていく。
「……も……う……し……に……た……い……」
どうにもできない。
どうしようもできない。
抗う事すら許されない。
そんな中で、私の魂は――、感情や――、記憶は――、闇に呑まれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます