第391話 第三者side
――時間は少し遡り、
「くそっ! 一体、どうなっているんだっ!」
六波羅命宗の大僧正の辻本は、悪態をつきながら大空洞内の壁面に作られた強化ガラスに囲まれた部屋で、モニターを見ながらコンソールパネルに両手を叩きつけていた。
「大僧正様……あれは、一体――」
「神薙だ……」
辻本が歯ぎしりしながら答える言葉に、困惑しざわつく六波羅命宗の研究員たちは、「そんな……」と、いう表情を見せる。
彼らの目の前には、銃弾が一切! 効かない桂木優斗の姿が映し出されており――、
「大僧正様。……じゅ、銃弾が効かないならわかりますが……、あれは弾いています。しかも腕で……」
「分かっている! (なんなのだ! あの化け物は! 銃弾を素手で弾くだと!? 体で受けてダメージが入らないのなら、まだ分かる! だが、銃弾を素手で弾くという事は、視て弾いているということだ……。つまり――、あいつには銃弾を見極めるほどの動体視力と、運動能力があるということだ……。そんなことが……そんな有り得ないことを! そんな超常的な運動神経を有することが本当に人間に可能なのか!? 神社庁の神薙ですら、神の力を行使する為には祝詞を使う必要があるというのに! 咄嗟の銃撃には無力だと言うのに! ――あ、あの化け物には、そんなモノすら通じない! ありえない! あんな、あんな化け物がいるなんて聞いてないぞ!!)」
「……ど、どうしますか?」
辻本の苛立ちに、彼を刺激しないようにと恐る恐る話しかける信者に、辻本が返すことが出来たのは歯ぎしりのみ。
「(どうしますか? だと……? そんなことは俺が知りたいわ! あんな化け物が乗り込んでくるなんて想定外もいい所だ!)」
「大僧正様。警備室に連絡をし、地上と地下を結ぶエレベーターの電源をカットしました。これで、あれが此方に来る可能性はないかと」
「……(こいつは何を言っているんだ?)」
心の中で研究員に対して辛辣なツッコミを入れる辻本は、思わず頭を抱えたくなった。
目の前のモニターで、キョンシーを纏めて薙ぎ払っている光線。
そして人間を遥かに超越した運動能力を見せる化け物を見て、どうして、そんなに簡単に安心できるのかと。
「お前達は、時間を稼げ!」
「――え?」
辻本の言葉に、一人の研究員が首を傾げるが――、
「まだ器は不完全だが、神を降臨させる」
「神をですか? ――で、ですが、まだ儀式は不完全です! それでは、六波羅命宗の1000年の悲願が!」
「仕方ないだろう! それに、すでに六波羅命宗の1000年分の呪いが、この化け物の中には蓄積されている! すでに神を降臨させるに事足りる器は形成されている。あとは――」
そう語りながら、辻本はコンソールパネルを操作していく。
すると、研究室の中央部分の床が開き、台座が推しだされていく。
高さ2メートルの高さまでせり出したところで、台座の一部が開く。
「この銅鏡の――、御神体に封じ込めた建御名方神(タケミナカタ)の力を、この化け物に喰わせるだけだ。その前に、少しでも生贄を喰わせて器を拡張しなければ――」
「ですが……」
「何だ? お前は、軍神である建御名方神(タケミナカタ)の力を信じてはいないのか?」
「いえ。そういうことでは……」
「武神である建御雷神(タケミカヅチ)と戦ったほどの力を有している神の力の一端が、この銅鏡には封じられているのだぞ! この力を使えば、あの程度は――」
忌々しいと言った目で、モニターに映る桂木優斗を見る辻本は、口角を上げると――、
「あの程度の化物は、我々の神が駆逐できる! だから、お前達は時間を作れ。一分一秒でもな! 分かったな?」
鬼気迫る辻本の様子に、研究員たちは、頷く。
辻本は、気絶したままの裸の女性を抱き上げると、大空洞内の下へと降下していくエレベータ―に乗り込むと、対岸側の生贄を隔離している施設へと向かった。
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