第389話
「『――お、おい! 桂木警視監っ! どこに行くつもりだ!』」
スピーカーから聞こえてくる都築の声。
「敵の場所が判明したから向かうだけだ。それと屍鬼は、全て殲滅が終っているから放置しておいても問題ない」
「『だ、だが! 民間人の安全を確保せずに勝手に動く行為は――』」
「悪いが、気絶している連中は、ここの組織の連中なのは着ている服装が同じことから明らかだ。だったら、地下に囚われている20人以上の生命反応を優先した方がいいだろう?」
「『人命に貴賤をつけるつもりか?』」
「つけるが、それに何の問題が?」
俺は、回答しながら地下へと通じるエレベーターがあるコンクリート製の建物内へと足を踏み入れる。
「ここか?」
波動結界で感知したエレベーターの入り口に到着したところで、ボタンを押すが、まったく反応しない。
ボタンの場所を手刀で破壊し配線に手を触れるが――、
「電気がきてない?」
波動結界で感知した限りでは、地下からは電磁波を感知できる事から、地下では電気が流れているのは間違いない――が……。
「直接降りていくしかないか」
力技でエレベーターの扉を開き、下層へと視線を向ける。
視界には、地下へと通じる真っ暗な穴が口を開けているが――、
「まったく――。侵入者対策ってところか……」
「『……ザザッ……、こちら……ザザッ……都築……ザザッ……何が……起きて……反応し……ザザッ――』」
「――お、おい!」
雑音と共に、何も聞こえなくなる。
「電波障害か? ――ったく……。高かったっていうのに――。まぁ、愚痴を言っても始まらないか」
エレベーターの垂直穴から、飛び降りる。
数十メートル、自由落下したところで、俺は壁を蹴り途中にある横穴へと足を踏み入れた。
通路には、明りが灯っている。
その事から電気が生きているのが分かる。
そして視界の先には、両開きの近未来的な扉が存在していた。
「人の気配があるから、来てみたが――」
扉の上にはプレートが埋め込まれていて、プレートには警備室と書かれている。
「どう見ても関係者の部屋だよな」
扉が存在している壁の右側面に設置されている指紋認証の機器に手を触れ、コードを解析し扉のロックを解除する。
空気が抜ける音と共に、エアロックが解除され扉が開く。
「う、動くなっ! どうして、ロックが解除され――」
警備室から3人の男が出てくると拳銃を向けてくる。
それぞれ表情には恐怖の色が浮かんでいるのが見て取れる。
「攻撃すれば、俺と敵対したと見なして殺す」
それだけ告げる。
「――ほ、本当に……、こ、攻撃しなければ殺さないのか?」
「ああ。約束しよう。ただし、情報提供はしてもらう。言わば、等価交換ってやつだな」
俺は肩を竦める。
そういえば異世界では錬金術師ってやつが等価交換、等価交換と馬鹿の一つ覚えみたいな事を言っていたな。
「わ、わかった……」
警備員が銃口を下しながら答える。
そんな警備員の肩を小突きながら他の警備員が――、
「お、おい! 正気か! 青木! 本当にいいのか! 大僧正様の言いつけを破るなんて!」
と、文句を言うが、それに対して他の警備員が拳銃を床に叩きつけると口を開く。
「宮木、お前こそ正気かよ! 冗談じゃない! お前だって、モニターで、こいつを見たろ! どっちに着くなんて、決まっているだろ! コイツは、銃も何も効かないんだぞ! 作っていた神だって瀕死の状態にされたんだ! ――なら、もう決まっているだろ! 俺達は、コイツ側に着いた方がいい!」
「富来、お前……。……だ、だが……、六波羅命宗の意味は――」
40代過ぎの男が、煮え切らない様子で呟くが、最初に銃口を降ろしてきた青木という男が――、
「そんな事の為に命を張るなんて間違っている! あ、あんたは、警察官なんだろ」
「まぁな」
「――なら、情報は提供する。だから、俺達を見逃してくれ。命を保障してくれ。六波羅命宗から助けてほしい」
「脅されているということか?」
「教団から抜ければ粛清がある……」
「なるほどな」
俺は肩を竦める。
まぁ、宗教組織とかならよくある話だ。
「……仕方ないな。分かった。情報を提供するのなら、お前達の生命は保証しよう」
「あと一つ教えてほしい。あんたは一体、何者なんだ?」
「俺か? そうだな……。警察官だな」
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