第387話 第三者side

 パトカーを運転する広瀬は、ルームミラーを左手で動かすと、兵士が気絶しているかどうかを確認したあと、車を路側帯に停めてから、懐からペンケースらしき物を取り出す。


「まったく、ああも簡単に情報を吐くとか玄武も温くなったものだな」


 ペンケースの蓋に入っていたのは注射器と緑色の薬剤。

 広瀬は、面倒くさいと言った様子で、注射器に緑色の液体を入れたあと、兵士の腕に注射器を差し、薬剤を注入する。

 しばらくして、兵士は痙攣したあと体中から力が抜ける。


「脈はないな。まったく、面倒事に巻き込みやがって――」


 吐き捨てるように広瀬は呟くと、車のエンジンをかけたあと諏訪警察署へと向かった。

 諏訪警察署に到着した広瀬は、足早に留置所へと向かう。


「(予想どおり、混乱していて助かったと言ったところか。まあ、銃撃戦があったり化け物が徘徊している中、さすがに注意深く誰がどう動くなんて見る奴はいないだろうからな)」


 心の中で、広瀬は暗い笑みを浮かべながら地下へと降りていく。

 到着した留置所にも、市民の誘導を最優先にしているのか監視役の警察官の姿は見えない。

 そんな留置所の通路を歩きながら、広瀬は手袋をし――、懐からトカレフを取り出したあと、サイレンサーをつける。

 兵士達が拘留されていた留置所前に到着したところで――、


「日本の刑事か。何のよう……だ……?」


 既に起きていた兵士が、広瀬が尋ねてきた事に関して小馬鹿にしたような言葉を発しながらも、その言葉は尻りすぼみしていく。

 理由は簡単で、広瀬が右手にサイレンサー付きのトカレフを所持していたからであった。


「師傅からの命令だ」

「――なっ! お、お前は――、ま、まさか……」


 広瀬が発した中国語に、目を大きく見開いた中国人民軍の兵士は恐怖に表情を引き攣らせて――、続いて空気が抜けるような音が、留置所に断続的に響き渡った。

 広瀬は、トカレフを男達の留置場内に投げ入れると、地下を後にし――、外へと出ると携帯を取り出す。


「こちら朱雀、仕事は終わった」

「ご苦労。次の任務だ」

「任務?」

「施設を破壊する予定だった爆弾が遠隔で操作できない状況になっている。その爆弾の再起動をしてくれ」

「そんな話は聞いていないが?」

「お前は黙って指示に従えばいい。分かったな?」

「分かった」

「爆弾のおおよその位置は――」


 話が終わった広瀬は、念のためという意味合いも込めて口を開く。


「その爆弾の威力はどのくらいだ?」

「お前が知る必要はない」


 そこで通話が切れる。

 広瀬は携帯を閉じると自家用車に乗り込む。


「爆弾か、場所は六波羅命宗の建物から近いようだが……。まったく、何の爆弾を仕掛けたんだ……」


 愚痴りながらも広瀬は車を走らせた。



 

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