第386話 第三者side

 キャンプ場で兵士を括りつけていた杭から降ろしたあと、村瀬は南側を見て構える。

 突然、発生した巨大な振動と、それに伴い発生した巨大な爆発と土煙。

 それらを上空に飛ばしていた式神から確認していた村瀬は、溜息をつく。


「なんだったんだ。今のは――」


 式神を使う事ができない広瀬だけは、何が起きたのか分からずにいた。


「どうやら、何か爆発が起きたようです」


 広瀬に対して、村瀬は冷静に答えるが、全てを答えるつもりはなかった。

 自身の当主が行ったことを下手に吹聴するような真似は従者としては不適切だと理解していたからであったが……。


「だが、只事じゃないぞ。いまのは――」


 広瀬隆文警部補は、独り言のように呟くと、ハイエースの中へと入り、映像を確認していくが、反物質の影響により電子機器が異常をきたしており何も映ってはいない。


「駄目だ。何も映ってない!」

「どうかしましたか? ああ、これはフリーズしてますね」


 すぐに村瀬は、機器を再起動し設定していく。

 しばらくしてから車内のモニターに映ったのは、どこかの施設で、銃撃を受けている場面であった。


「……これは」

「どうかされましたか? 広瀬警部補」

「――いや。何でもない。それよりも……、俺は一度、諏訪警察署に戻って署長と今後についての対応を確認してくる」

「分かりました。兵士の方も一緒にパトカーに乗せて行ってもらえますか?」

「もちろんだ。任せてくれ」


 気絶している兵士を広瀬と村瀬は残っていたパトカーに乗せる。


「では、村瀬さん。失礼する」

「はい。都築警視正に宜しくいっておいてください」


 広瀬が運転する車は、キャンプ場を出ていく。

 それを見送った村瀬は、車へと戻るが――、


「――ッ。ここは……。ハッ! 桂木ッ! 桂木優斗は、どこにいる?」


 先ほどまで気絶していた警視庁公安部の立花が額に手を当てながら立ち上がると、周囲を見渡したあと、村瀬へと視線を向けてきた。

 

「おい! 桂木優斗は、どこに行った?」

「当主様は、現在、戦闘中ですが……、それが何か問題でも?」


 ぶっきらぼうに答える村瀬に、苛立ちながら――、


「大有りだ! 日本政府と中国政府の間で問題になったら外交問題だぞ! まったく――、これだから何も理解していない学生は……」

「立花警視監。申し訳ありませんが、桂木優斗様は、現在は国からの支援を一切! 受けていない完全独立採算制をとっている企業体である陰陽庁のトップに位置する方です。そのような方を一、警察官ごときが侮辱することなど許される訳ではないと思いますが?」

「い、いち……警察官だと? お前は、この私が誰だかを理解して――」

「理解しています。雇われの警視庁公安部、本部長であり警視監の立花劉氏だということを」

「――な、なら……」

「何度も言いますが、公安部であろうと日本政府であろうと、私達は日本国政府から自由に裁量を与えられた内閣府直轄特殊遊撃隊で、その権限は公安と言えども犯す事は出来ません。よって、当主様に対しての暴言の数々を許容することは、部下である私は承りかねます」

「……お前は、何も理解していない! 公安が、どうして、こんな田舎まで来ているのかという事実を!」

「なら、言えばいいのでは? ただ、配慮するかどうかは、当主様次第ですが」

「――ッ」


 顔を真っ赤にする立花に対して――。


「一応、伝えておきますが、当主様が是と言わない限り公安がどのように命令をしてきても、こちらが、その要望を受け入れることはありません」

「な、なんという……無礼な……。公安を敵に回したら、どうなるのかくらいは分かっているだろうな! 桂木優斗の身内であっても投獄して有罪を課すくらいは問題なく行うことはできるんだぞ!」

「そうですか。では、やってみたらどうでしょうか? きっと楽しいことになると思います」



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