第384話
――諏訪警察署内の対策本部室。
「『何を甘いことを言っている? 相手を殺すような連中を無力化しただけだろう? 逆に拷問に合わずに一瞬で死ねることを感謝して欲しいものだ』」
何の感慨も――、感情も見せない、凡そ人という感情を廃した言葉に、諏訪警察署の署長はゴクリと唾を呑み込む。
都築は理解してしまった。
彼が――、桂木優斗という人間は、根本的に価値観が自分達とは異なることに。
人種や国家という枠組みの価値観ではなく、まったく別の世界で生きてきたような――、異質な価値観を。
「そ、そうか……。だが、出来るだけ殺さずに事件を解決してくれ……」
だからこそ、そう桂木優斗という存在に語り掛けることしかできない。
何故なら、自分達が手を組んだ――、依頼を出した人間は、人とは異なる考えを有しているから。
「『それは無理だな。俺が受けた依頼は失踪者の探索と事件解決だ。そこに敵対する連中を生かして捉えるという依頼はなかった』」
「――で、では、いまから追加は――」
「『途中からの依頼変更は無理だ。それは不履行と言ったところだろう? そもそも、俺は敵対した奴らを廃しただけに過ぎない。相手は、俺を殺そうとした。無暗に抵抗しなければ――、素直に説明しておけば生きる道はあった。それ選択肢を捨てたのは殺された連中のせいであって、俺には関係ない』
即答されてきた桂木優斗の言葉に――、
「(くそっ……なんなんだ……この、化け物は……。屍鬼だと? 大蛇だと? 冗談じゃない! 我々の味方だと思っていた桂木優斗という人間の方が遥かに化け物じゃないか!)」
苛立ち、諏訪市警察署署長である都築は、唇を噛みしめる。
そしてテーブルに拳を叩きつけた。
彼は思った。
何と言う化け物に依頼を出してしまったのだと……。
「それは警察官としての職務から逸脱していることを君は――」
「『何を言っている? 俺は、警察官としての立場を有しているが、それは役職なだけであって、警察組織に媚び諂っているわけではないからな。だから、言っただろう? 俺は、【日本国政府、内閣府直轄特殊遊撃隊】だと。警察組織としての身分は有しているが、それを遵守する考えなんて一切ない。第一、戦場において命のやり取りをしているのだから、殺そうとしてくる連中に対して、手心を加える方が失礼だろう?』」
そう言葉を返してくる桂木優斗の視界は、つねにモニターに映し出されていた。
署長と会話をしながらも、桂木優斗は、襲ってくる六波羅命宗の人間を容赦なく惨殺していく。
そこには一切の慈悲はなく――、攻撃を加えてきたら殺すと言った行動を取っていた。
その様子を見ていた対策会議室に残っていた刑事たちは呆然と画面を見ながら、署長との会話を聞いていただけ。
あまりにも現実離れした様子に誰もが理解できずにいたのだ。
――少し前まで、普通に会話をしていた少年が、何の苦悶も見せず、何一つ躊躇せず機械的に人を平然と殺す姿に。
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