第367話

「当主様……」


 俺の後ろに控えていた村瀬が、半目で呟くが――、


「おほん、その辺は、俺の部下が説明する。村瀬、説明をしてくれ」

「当主様は本当に……」

「そちらの方は?」


 署長が、尋ねる。


「私は、陰陽庁に属している東京都本部の村瀬 紘一と言います。こう見えても陰陽道を嗜んでおります」

「陰陽道? つまり陰陽師と言う事ですか?」

「そうなります。都築和樹警視正」

「都築で構いません。それよりも、桂木警視監が戦った相手は屍鬼と言っていたのは貴方でしたね?」

「はい。そちらに転がっている死体を確認しましたが――」


 村瀬は視線をゾンビの死体へと向ける。

 必然的に、その場にいた全員の視線が、俺が運んできた死体に向けられる。


「間違いなく屍鬼です」

「屍鬼と言うのは?」

「分かりやすく言うのでしたら、ゾンビと言った方が分かりやすいでしょう。ただ、ゾンビなどと違って太陽光に晒された場合、消滅するのが屍鬼の特徴です。そして、屍鬼は、生きている生物――、端的に言いますと人間を喰らって、同胞を増やすことを目的として、それを主題として動いています」

「……そんな化け物が……諏訪市近辺の森の中を徘徊しているということか?」

「そうなります。ただ――」

「ただ?」


 署長の問いかけに答えていた村瀬は、


「今回の屍鬼ですが、明らかに術者が存在しています。その為に、太陽光に晒されても肉体が消滅していません」

「――と、いうことはどういうことなのかね?」

「当主様に無傷で捕獲するようにと命令を出していましたが、それは、かなり危険な指示ですので、今後は控えてください。今回の事件は、少なくとも常識範囲内で処理できる事件の範疇を超えていますので」

「……分かった。それで、我々はどうすればいい?」

「手を出さずに住民の避難誘導を最優先にお願いします。正直、光に晒されても消滅しない屍鬼が無数に存在しているという事は、生者を求めて町に向かい住民を襲う可能性がありますから」

「つまり、君達だけで、今回の事件を対処するということか?」

「私は、あくまでもバックアップというかサポートですので、当主様が一人で処理するという方向になると思います」

「そんなことは可能なのか?」

「まぁ、問題ないな」


 村瀬と署長の話を聞いていた俺は肩を竦めながら答える。

 いざとなれば、力が3%まで回復した状態なら反物質をある程度は生成することは可能だし、それを利用した『魔光閃弾』で、周辺を焼け野原にするか、山を消し飛ばせばそれで終わることだからな。

 まぁ、そうなれば事件は未解決のまま力技で全てを解決する方向になるから、好ましいとは言えないが……。


「分かった……。それでは住民の避難と国道、県道の封鎖は、諏訪警察署と行政が連携して行うとしよう。ただ国からの許可が下りるのは時間が掛かると思うが……」

「国からの許可については、俺から取っておこう。その方が、話は早いからな」

「待ちたまえ!」

「どうかしたか? 立花警視監」

「どうかしたではない! 諏訪市だけで、どれだけの住民が居るのか分かっているのか!? 5万人を超える住民を避難させるなんて、そんなことは不可能に近い――、いや! 無理だと言っていい。病院に入院している患者や寝たきりの人間の移送を考えたら、住民全員を移動するなんて現実的ではない!」

「――なら、どうしろと?」

「まずは山に近い住居に住んでいる人を公民館などの場所に一時的に避難させ、県道と国道については検問を敷いて出入りの制限をかけるのが常識の範疇だ! 全員を避難させるなんて、パニックが起きて収集がつかなくなるぞ!」

「それが立花警視監の考えか?」

「それが普通だと言っている! だいたい、桂木警視監は、中国人民軍と許可なく交戦までしているではないか! これは明らかに大問題になるぞ!」

「仕方ないだろ、相手から攻撃を仕掛けてきたんだから」

「だからと言って22人もの人間を殺して言いわけがない。それに対する弁明はあるんだろうな?」

「別にないな。大体、俺に喧嘩を売って来た時点で皆殺しは基本中の基本だからな。30人中8人も生かしておいた奇跡を喜ぶべきだと思うが? それに、俺は敵対してきた奴の身柄を守るほどお人よしでもないからな」

「き、君は……国際条約を分かって――」

「そんなもんは知らないな」


 むしろ知っていても守るつもりはない。


「言っておくが、俺は敵対した相手は女、子供、老人であっても確殺することを信条にしているからな」

「君は……」

 

 俺に人並みのモラルを求められても困る。


「第一、命のやり取りをする戦場において、手心を加えるなぞ、それこそ相手に対する侮辱だろう?」


 


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