第366話

「当主様、屍鬼です」

「屍鬼? グールとかゾンビとは違うのか?」


 イヤホンから聞こえてきた陰陽師の村瀬の言葉に俺は反応しながらも、警察官の恰好をしたゾンビが此方へと視線を向けてくる。

 ただし、その本来は存在するであろう瞳は黒く淀んでいる。


「同じようなモノです」

「――なら!」


 腰からデザートイーグルを抜く。

そして生体電流を操作し、銃口付近に電磁場を展開すると同時に引き金を引く。

 銃口から放たれた50AE弾が、電磁場により加速しレールガンとなり、警察官の服を着たゾンビの頭を吹き飛ばす。

 さらに、身体を喰われていた中国軍の兵士の頭も死霊化しないように吹き飛ばし処理する。


「やれやれ……」


 呟きつつ、視線を前方へと向ければ、そこには100を超える生ける屍が身体を揺らしながら、俺の方へと近づいてきていた。

 もう一丁、デザートイーグルをベルトから引き抜き2丁拳銃として銃口をそれぞれ不死者の方へと向けトリガーを引いた。

 100体を超える不死者の弱点である頭部を次々と銃弾で吹き飛ばしながら、不死者に肉薄し、徒手空拳により10体まで減った不死者の頭部を蹴りと拳で粉砕した。




 ――30分後。


 生存していた8人の中国の兵士をキャンプ場まで連れてきた俺は、村瀬が運転するハイエースと合流していた。


「村瀬。原因は分かるか?」

「いえ。ですが、今回の失踪事件は、普通の失踪とは異なると思います」

「具体的には?」

「普通の人間は、死んでも屍鬼になる事はありません。なのに、モニターを見ている限りでは、100を超える死体が蠢いていました。これは明らかに人為的だと予測できます」

「なるほどな……。その点に関しは俺も同意見だ。死んだだけでグールとかゾンビになっていたら世界中は、不死者に埋め尽くされているからな」

「はい。おそらくは何らかの力の影響か、それに近いモノに感化されているかと――」

「つまり、現状では――」

「何も分からないという点ですね」


 俺と村瀬が話している間に、俺が連れてきた兵士達の装備を確認していた立花と広瀬が戻ってくる。


「それにしても、やっこさん達は、中国人民軍の兵士ですかね?」


 こちらに向かってきながら話す広瀬。


「おそらくな。だが、これだけ完全な武装をしている兵士を……」


 それに答える立花。

 両者とも、その表情は硬い。


「桂木警視監。他の中国人兵士は、どちらに?」


 そう問いかけてくる立場に俺は――、


「まだ山の中だ。生存してない連中は、あとでも問題ないからな。まずは生存している連中だけ連れてきた。それに尋問も生きている人間で行うからな」

「そ、そうか」


 俺からの答えに、若干引き気味な立花から、視線を街道の方へと向ける。

 視線の先にはパトカーが10台ほど連なって向かってくるのが見えた。

 パトカーは、俺の目の前で停まる。

 中から諏訪警察署の署長である都築が出てきた。


「桂木警視監。一体、どうなっているのか?」

「分からん」


 突然、事件のあらましを語れと言われても困る。

 正直、俺にもよく分からないというのが正直なところだ。


「分からない?」

「ああ。どうして、ゾンビやグールなどと言ったモノが、山間部に出てきたのか、まったく分からないな。ただ――」

「ただ?」

「一つ言えることは、今回の失踪事件は、普通の失踪事件とは異なるって点だな」


 村瀬の言葉を丸パクリして答えておく。

 

 


 

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