第363話 第三者side
桂木優斗が山の中で足を踏み込んだと同時に――、
黒塗りのハイエースの車内に設置されている5つのモニターの内、一つの山林の映像が映り込む。
「このモニターが、桂木警視監が視界に納めている映像ですか……」
「はい。広瀬様」
広瀬の問いかけに、車の運転を止めて後部座席側へ移動してきていた村瀬が答える。
「広瀬でいい。それよりも君は、陰陽庁に属しているというのは――、そんな組織があるなんて初めて聞いた。立花警視監は、御存知で?」
「ああ。話だけは聞いていた」
「公安の方になると降りてきてる情報が違うんですな」
広瀬の独り言に、目を細める村瀬は、
「立花警視監は、公安の方なのですか?」
「君、あまり部外者に内情を説明するのは感心しないな」
「別にいいのでは? 彼は、桂木警視監の部下ということだと思いますし……、そうですよね? 当主とか呼んでいましたよね?」
「ええ。桂木警視監は、陰陽庁のトップに位置する方です」
「それにしても陰陽師なんて物語上の話だと思っていましたよ」
「そうですね。一般の方に知られると混乱する恐れがありますので、その存在は秘匿されていますので、外部には情報を漏らさないようにお願いします」
「分かった」
「それでは、広瀬さん、立花警視監、こちらのインカムを装着してください」
二つのインカムを村瀬は取り出すと、それぞれ渡したあと、社内に搭載されているパソコンに繋がっているキーボードへと手を這わす。
「これで、諏訪警察署の対策本部との音声接続を終えました」
「こちら、内閣府直轄特殊遊撃隊です。音声は聞こえますか?」
インカムに向かって声を出す広瀬。
「対策会議室です。通信はクリア。映像ともに問題はありません」
「どうやら諏訪警察署とのリンクは問題ないようですね」
「それにしても、こんな設備を陰陽庁は有しているとは……」
「全て当主様の私費で用意していますが……」
そんな二人の会話を聞いていた立花がハッ! と、した表情を見せる。
「なるほど……。コレは例の福音の箱の件の報酬で……」
「立花警視監は、御存知で?」
「当たり前だ。あれだけの事件を公安が知らない訳がないだろう。それにしても、随分と――」
「設備投資に、資金を投入している事が不思議ですか? 立花警視監」
「神の力を有しているのなら、そこまでは必要ないと思ったのだが……」
「ですが、周囲が状況を把握できるように努めるのは、依頼を受ける側の務めだと当主様は仰られていました。そのおかげもあり、対策会議でも当主様の行動の把握が出来ていると思います」
その村瀬の言葉に立花は無言になる。
痛い所を突かれたと言った様子で――、
「すまなかった。出過ぎたことを言った。それよりも、この赤い光点は何だ? 地図上を、凄まじい速さで移動しているようだが……」
「あー、それは当主様が山の中を移動している様子ですね」
「――だが、映像は何も……おっと! いきなり映像が飛び飛びで映り込んでいるな。どうなっているんだ?」
「山の中では、電波の受信感度は悪いですから、それに当主様の移動速度は、現在は時速80キロと言ったところでしょうか?」
「――何!?」
「何だと!?」
声を上げた立花と、広瀬がモニターに近づき赤い光点の移動速度に対して目が釘付けになる。
「時速80キロ? 山の中で?」
「はい。当主様でしたら、遅いくらいです。話によるとマッハで移動できるとか……」
村瀬の説明に、二人は苦笑いを浮かべることしか出来ずにいた。
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