第362話

「こ、これは……?」

「先ほど説明したとおり、俺の視界をダイレクトにネットワークを介して、こちらのノートパソコンの画面へと映像を転送するシステムだ。これなら、俺が、どういう行動をしているのか分かるはずだし、適切に対処が出来るだろう? さらにマイクも内臓されているから、分かりやすいだろう?」

「た、たしかに……」


 都築署長へと、ノートパソコンの使い方を説明したところで――、


「桂木警視監。こちらのシステムは、どこからの供与で?」

「俺は私物だ。一応、俺は警察組織に身分はあるが、国から金を貰っている訳ではないからな。むしろ全て持ち出しですらあるから、国から何か言われる謂われもない。それに何か問題でもあるか? 問題でもあるのなら、俺は警視監の身分を捨ててもいいが?」

「――い、いえ……そんなことは……、ただ少々、このようなシステムを警察組織の一事件で使うのは驚きまして」


 そう立花が困惑した様子で、


「気にする事はない。何事も初めてというのはあるからな。それに一々、携帯電話で情報のやり取りをするのはレスポンスが悪いからな」

「分かりました。それでは、すぐに警視庁サイバーセキュリティ対策本部から何人か――」

「そうだな。運用する上では、その方が確実性は高いだろうな。それじゃ、立花警視監、宜しく頼む」

「分かりました」


 電話をかけ始める立花を他所に俺は署長へと視線を向け、


「――では、俺は現場に行くが――」


 俺の言葉に立花が話中だと言うのに


「私も現場に同行します」

「対策本部に居た方がいいんじゃないのか? 警視庁から人が来た時に困るだろう?」

「そちらに関しては、優秀な人間に任せればいいだけですので。都築警視正、こちらを任せても?」

「分かりました。それと広瀬警部補」

「どうかしましたか?」


 都築の手招きに気が付き小走りで走り寄ってくる広瀬。


「桂木警視監と、立花警視監を現場まで案内してくれ」

「分かりました。それで現場とはどちらまで?」

「俺が調査を始めたいと思っているのは、車の中から人が消えた場所だな」


 俺はホワイトボードを指差す。

 広瀬がコクリと頷き、


「すぐに車を回します」

「その必要はない。俺が乗って来た車がある。それで移動をするとしよう」

「君の車? まさか無免許で――」

「そんな事がある訳がない。きちんと運転手はいる」

「それは良かった」


 立花の質問に答え、すぐに車まで戻る。


「当主様って……!? そちらの方々は?」

「俺と一緒に現場まで同行する立花警視監と、広瀬警部補だ」

「なるほど……」


 村瀬の問いかけに答えたところで――、


「桂木警視監。彼が運転手ですか?」

「私は、村瀬紘一と言います。陰陽庁に所属する陰陽師です」


 村瀬の自己紹介に、顔色を変える立花。

 どうやら陰陽師という言葉を信じないというよりも驚いたという感じか?

 まぁ、普通に暮らしていたら陰陽師なんて空想上のモノだと思うだろうしな。


「――よ、よろしく頼む。立花だ」

「それでは、私がナビゲーターをしますので、村瀬さんは運転をお願いします」


 広瀬は、助手席に座り、村瀬に語り掛け、すぐに車は走り出す。


「どのくらいで現場に到着する予定だ?」

「20分ほどでしょうか?」


 広瀬の話を聞きながら、思ったよりも時間がないなと思いつつ、俺はハイエース内のパソコンの電源をつけていく。


「それにしてもすごいな……。この車は……」


 そりゃそうだろう。

 最新式の戦車を3台購入できるほどの金を注ぎ込んで短期間のうちに装甲車へと改造した車だからな。

 米軍最新の電子戦EMSを搭載しているし。

 ハイエースの中を見ながら語る立花を他所に、俺は床に積んであったアタッシュケースを手に取る。


「それは?」

「丸腰で山の中に入る訳にはいかないからな」


 アタッシュケースを開けて、軍用装備を装着したあと、他のアタッシュケースを開ける。


「か、桂木警視監!? それは――」

「何か? 問題でも?」

「いくら何でもそれは……」


 アタッシュケースの中から出てきたのは、デザートイーグル50AEと、10個のマガジン。

 それらをベストへと装着していき、さらにダガーやナイフも括りつけていく。

 

「当主様。そろそろ到着します」

「分かった。立花警視監。そちらのモニターに俺が見る視界が映るので、何かあれば対策会議と協議して行動をお願いします」

「待ちたまえ! それは――、その拳銃は、許可は出していないぞ? 警察組織は……。それは違法――」

「国からの承諾は得ている」

「何!?」

「別に公安に届けはしてないし、届ける義務もないからな」


 神谷に頼み日本国政府との協議をした結果、すぐに許可が下りたのは驚きだったが――、


「ここの設備は、すべて日本国政府――、総理大臣が許可を出した上で作り上げている。だから何の問題もない」

「総理大臣が……」

「だから、安心していい」


 立花に説明しながら俺は片眼鏡を装着し設定し終えたところで、車が停車する。


「当主様。到着しました」

「そうか。それじゃ、あとは任せた」


 車は、失踪した高橋夫妻が乗っていたと思われる軽自動車の前で停まっていた。

 すぐに車から降りて調べていくが、とくにおかしな個所は見当たらないが――、


「桂木警視監」

「広瀬警部補、失踪した人間の車を、このまま現場に放置しておくことは問題ないのか?」


 俺の中では、車はすぐに警察署に移動して検証をするというのが、よくドラマなどで見る内容だったが、実際は違うのか?


「現場検証は終わったのですが、移動については許可が下りておらず……」

「許可が下りてない?」

「はい」

「つまり、本来なら、すぐに移動するということか?」

「そうなりますが、今回は事態が事態ですので……、おそらく、その関係かと……」

「それは署長の?」

「――いえ。関東管区警察局からです」

「……普通、干渉してくることはあるのか?」

「そのようなことは……」


 つまり異例ということか。

 ますます疑問は尽きないな。

 波動結界を一応、展開して見るが、何か異常があるような感じもないし、地道に山狩りをするしかないか。


「分かった。それじゃ、すぐに車に戻っていてくれ。あと対策本部から何か情報が降りてきたら知らせてくれ」

「分かりました」

「機器の使い方については、村瀬にも説明してあるから聞いてくれればいい」


 コクリと頷く広瀬へと視線を送ったあと、俺は波動結界を展開しながら山の中へと足を踏み入れた。


 


 

 

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