第361話
つまり、他の失踪とは違うということ。
他の刑事たちは、事実を述べたあと、捜索エリアについての話をしているが、10人以上の警察官が行方不明になっている以上、第二、第三の失踪が出ないようにとの配慮から、山の探索計画でもたついている状態。
「桂木警視監は、どう思いますか?」
そう俺に話しかけてきたのは、先ほど俺の専業について心配してきた公安の人間の立花警視監。
「どうとは?」
「今回の失踪事件に関して神の力を有している君が何か気が付いた点があればアドバイスでもと思っただけだ」
「なるほど……」
俺は頷くが、正直言って、現状では確定的な証拠どころか事件のクエスト解決の糸口も見えてない状況。
そんな曖昧な状態で、俺から語れるようなモノはない。
「何か気が付いた点でも?」
目を細め、俺に問いかけてくる立花に――、
「現場に行かないと何とも言えないな。会議室で話をしているだけでは、どうにもならないしな」
「そうですか。桂木警視監、宜しければ連絡先の番号でも伺いたいのですが?」
「別に対策本部を通せば問題ないだろう?」
一応、俺は長野県警からの依頼を受領したという形で来ているからな。
秘密裏に行動を取る事は好ましくないだろう。
「そうですか……」
残念そうな表情で俯く立花の様子に、俺は溜息をつく。
そういえば、こいつは公安のお偉いさんだったな……、それなら何か情報があれば貰えるのなら、電話番号を教えるくらいは問題ないか。
「分かった。ただし、プライベート中に、電話を寄こさないでくれ」
「助かります」
立花と電話番号を交換したあと、俺は席を立つ。
それにより一斉に俺へと刑事たちの視線が向けられてくる。
「桂木警視監、何か?」
「都築署長。とりあえず現場付近一帯の一般人と警察関係者の立ち入り禁止を徹底してほしい」
「それは、警察関係者に山の捜索活動をするな? と、言う事でしょうか?」
「ああ。まず言えることは、今回の事件は、行方不明者が多すぎること。そして、それは失踪を含む。しかも警察官まで行方不明となっているとみると下手な戦力投下は、無駄死にを出す可能性がある」
「桂木警視監。まるで戦場のように仰られますが……」
「分かりやすく説明させてもらっただけだ。とりあえず、ここは俺に任せてくれ。情報共有については、逐一、送れる」ように装備を整えてあるから、それを確認してくれ」
正直、自分の身すら満足に守れない兵士に戦場でうろつかれるのは邪魔でしかない。
それなら一人で行動していた方が、効率が良いと言える。
「刑事課、及び警察官は普段の職務を遂行しておけばいいと?」
「まぁ、そんな感じだな。今回の事件に関しては、長野県警から依頼を受けた以上、任せてくれればいい」
「桂木警視監」
俺が忠告したところで立花が眉間に皺を寄せ俺の肩を掴んできた。
「一人で事件に当たるという行動は、あまりにも無謀ではないのか? それとも、神の力と言うのは、それほどまでに万能なのか?」
「心配してくれて悪いが、こういう事件は良くあったからな」
「――ど、な、何を言っているんだ? こういう事件がよくあったとは?」
異世界では、魔物が村や町を襲って人間を食糧や繁殖として利用する為に連れて行ったことがよくあったからな。
そういうクエストとか、異世界ではありふれていたし……。
そういう事件の解決は、冒険者にとってはオハコだったりする。
何しろ、探索魔法とか普通に普及していた世界だったからな。
まぁ、俺の場合は生体電流を利用した波動結界で調べているし……。
「とにかく捜索は俺に任せておいてくれ」
対策本部の会議室を出たあと、俺は駐車場に止めてある黒のハイエースに乗り込む。
「当主様、話は終わったので?」
車を運転してきた男が、俺に話しかけてくる。
その男は、陰陽庁から運転手として神谷が配属させた村瀬(むらせ) 紘一(こういち)で、陰陽庁の陰陽師の一人。
年は25歳と若いが、陰陽庁の中では10本の指に入る実力者だとか。
「ああ。とりあえず、俺が現場の捜索を一人ですることになった」
「それは、当主様が一人ですると提案したのでは?」
「よく分かったな」
会話をしながら、ハイエース内のラックに置かれている方眼鏡――単一レンズの眼鏡を手にしてから左目を覆うように装着し設定する。
左目に掛けられているレンズに、半透明な図形が表示されたあと、諏訪市全域の地図が表示される。
「設定は上々というところだな」
「当主様、それって使ってもいいんですか? 米軍の最新製品というか実験中の製品ですよね?」
「仕方ないだろ。今回は、探索範囲が広大だからな」
米軍の試作品――、その名を広域情報端末AION。
高度警察情報通信基盤システムとのリンクが可能な機器ではあるが、その価格は20億円と、どこの警察署も配備していない最新機器。
俺は片眼鏡のカメラを調整し、衛星回線とのリンクを確立させたあと、ハイエース内に設置されているサーバーとのリンクを繋ぎ、俺が見ているハイエース内の様子をモニターに映し出す。
「感度は良好だな」
「それ壊したら大変ですね」
「そしたら買うだけだな」
軍用のノートパソコンへの映像転送設定が終わったところで、俺はハイエースから降りて対策会議室へと戻った。
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