第355話
伊邪那美に相談した翌日。
現在、俺は登校した足で職員室に居た。
「桂木君。先生は、貴方の事が心配でならないの。前回の小テストでも赤点ばかり取っていたわよね? それなのに、来週の月曜日から始まる中間考査を目前に数日間、休みが欲しいとはどういうことなの?」
職員室で、俺をジト目で見あげてくる金木先生の代わりに配属された宮内(みやうち)教師は、そう話しかけてくる。
「それは……、ちょっと持病の癪が……。ゴホッゴホッ……」
俺は、ワザとらしく咳をする。
まさしく名演技と言っていいだろう。
そんな俺の名演技を、担任として配属されたばかりの宮内教師が疑った目で見てくる。
「はあ……。そういう演技はしなくていいから。そんなんじゃ、中間考査も落とすわよ?」
馬鹿な……、俺の完璧な演技が見抜かれただと?
「先生ね。こう見えても、偏差値の低い学校にいたから、桂木君みたいな言い訳で休む学生をたくさん見て来たの。それと同じ目を桂木君はしているわ」
「……先生」
「何よ? 何を言われても休みは許可できません! 私は生徒の嘘を見抜くのは得意だから。伊達に30代間近まで教師に人生を捧げてはいないから」
「そ、そうですか……」
また面倒な人が担任教師になったな。
これなら行方不明中の金木先生の方が、まだ扱いやすかった。
阿倍珠江も余計なことをしやがって!
それでも、今日から担任として赴任してきた宮内(みやうち) 梓(あずさ)は、年齢が30代一歩手前であったとしても見目麗しく、出るところは出て引っ込んでいるところは引っ込んでいる事から、男子生徒の中では、かなり噂になっていた。
「ほら、さっさと授業に出なさい」
話は、ここまでだとばかりに立ち上がった宮内教師は職員室の外へと俺の背中を押していく。
こうなったら仕方ないか……。
俺は溜息をつき成すがままに職員室から出る。
その足で、俺は昇降口を通って学校の敷地外から出たところで、黒のハイエースに乗り込む。
「どうでしたか? 桂木警視監」
ハイエースの後部座席に乗り込んだところで、神谷警視長が話しかけてくる。
「駄目だ。新しく赴任してきた担任は融通が利かなかった」
「それは残念でしたね」
「残念だったじゃない」
後々、家に電話が掛ってくるどころか、教室内でつるし上げされる事は確定だ。
「それにしても意外です。きちんと許可を取ろうとするとは」
「当たり前だ。一応、俺にも社会的体裁というのがあるからな。それに、妹も要るわけだし、警察も、その辺は理解しているだろ?」
「そうですね」
俺の言葉に同意しつつ、神谷がフォルダを差し出してくる。
「これは?」
「長野県警と諏訪警察署が調べた情報になります」
「情報?」
クリアファイルを受け取りながら中を見ていく。
「桂木警視監が対応される大量失踪者事件ですが、どうやら今回が初めてではないようです」
「どういう意味だ?」
「諏訪湖付近では、12年に一度、大勢の登山者が行方不明になっている事件が起きているようです。因果関係は不明ですが――」
渡されたクリアファイルには、12年ごとに33人の人間が、失踪していると書かれている。
「33人か……。多いな――。いや、多すぎる……」
「はい。諏訪警察署も、長野県警も今回の事件に関しては、定期的に起きている事象と言う事もあり因果関係を調査しているようですが――」
「調査しているよう? つまり、捜査が難航しているということか?」
「どうも警察の上層部の方から圧力がかかっているらしく、捜査本部を諏訪警察署に設置したのですが、解散させようとする動きがあるそうです」
「……本当に警察上層部からの圧力なのか?」
俄かには信じがたい。
そもそも、普段から俺が知っている警察組織は、10人以上の失踪者が出ている事件を揉み消す程の考えはあり得ないと思うが……。
「はい。それは間違いないかと。関東管区警察局の上が動いているという話がありますが、現在は調査中です」
「組織内のゴタゴタって訳ではないよな……」
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