第356話

「それは無いと思います」

「そうか」


 それなら、関東管区警察局から圧力を掛けている連中から話を聞いた方が早いかも知れないな。


「神谷」

「はい。何でしょうか?」

「その圧力をかけている連中と対話は可能か?」

「局長が許可を出していません」

「局長?」

「はい。関東管区警察局のトップが、広域調整部を含めた警察官僚達との対話を拒否しています」

「局長が、その圧力をかけている連中と繋がっているという事か?」

「そこまでは、まだ裏が取れていませんが――」

「――なら直接、向かった方が早いかも知れないな」

「流石に、何の確証もない状況下で、行動を取る事はできないです」

「まったく――」


 俺は、資料を車の中に設置したラックに置き溜息をつく。


「つまり、警察上層部から圧力がかかっているのは分かるが、確証が無いから動けないということか」

「そうなります」

「はぁー、分かった。それなら、引き続いて調査をしてくれ」

「分かりました。予算は、多少掛かってしまいますが――」

「予算は気にせず使ってくれ」


 金はあるからな、今回は長野県警に借りを作るって意味合いの方が強いから、情報に金を注ぎ込むことは特に問題はない。


「すぐに対策をとります」


 東京湾アクアラインで、神谷と別れたあと数時間後、諏訪警察署に到着し車から降りたところで、厳つい顔をした男が近づいてくると、俺の近くで足を止めると周囲を見渡し―0―、


「桂木警視監は、どちらに?」

「俺は桂木だ」

「ま、まさか……。若い方が、警視監になられたと話は伺っていましたが、これほど若いとは――」


 そこまで呟いたところで30代後半の男は、すぐに姿勢を正す。


「広瀬隆文警部補です。桂木警視監のことをお待ちしていました。すぐに対策本部へ案内します」

「そうか。それじゃ、案内してもらおうか」


 身長は190センチ近い男が、目の前を歩き案内された対策室に入ると100人を超えるスーツ姿の男女の視線が、こちらに向けられてきた。


「捜査員は、これだけなのか?」

「いえ。すでに現場に投入されている警察官が300人ほどいます」

「現場に?」

「山には入っていません」

「そうか。それは懸命な判断だな」


 広瀬隆文警部補と、会話をしていたところで白髪の小太りの男が、「桂木警視監、お待ちしておりました」と、話しかけてきた。


「桂木警視監。諏訪警察署の署長、都築(つづき) 和樹(かずき)警視正です」

「都築です。桂木警視監、応援に来て頂けたことを感謝します」

「都築警視正、宜しく頼む。それよりも、ここ数日間の間に起きた内容を教えて貰えるか?」

「もちろんです」


 

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