第354話 第三者side

 桂木優斗の出て行った扉を見ながら、深く溜息をつく伊邪那美は、ソファに倒れ込みながら、額に手を当てた。


「大丈夫か? 命」

「幸太郎は、何の障りもないか?」

「ああ。私は問題ない。命は、旦那と会うと体調を崩すことが多いが、本当に何ともないのか?」

「少し、当てられただけだからの」


 そう答えつつも、額に手を当てながら伊邪那美は眉を顰める。


「(それにしても、何と言う邪気なのか……。桂木優斗――、あれが内包している闇は、あれは本当に人が内包していいものではない)」


 そこまで心の中で呟いたところで、伊邪那美は自身を心配してきている山崎へと視線を向ける。


「(幸太郎は、何も感じてはいないようだが……。否――、神々の中でも、アレを可視化することが出来るのは、国産みか、それに近い神くらいなモノであろうか。それにしても……、あれだけの呪物すら喰らって力にするとは……、どういう精神構造をしていれば、ああなれるのだ。神ですら狂いかねない呪物を喰らって平然としているなぞ、あってはならない)」

「どうかしたのか?」

「何でもない」

「それにしても旦那は、呪物を食べて大丈夫なのか? 消化とか――」

「問題なかろう。パンドラの箱という呪物は、形こそ物質界に属して居るが、取り込むのなら、それは呪いとして形を変えて取り込むことになるからの」

「それは、問題なのでは……」

「あやつなら何の問題もない」

「そうなのか?」

「うむ。(まぁ、奴自身の内包している闇は、呪いなんて生易しいモノではないからの。そもそも闇という言葉で片付けていいほど甘い物ですらないからの)」

「なら、いいんだけが……。あ、そういえば――」


 伊邪那美と会話していた山崎がハッ! とした表情をしたかと思うと、ソファーに寝かされているパンドラの元へと近寄る。

 ソファーに寝かされているパンドラは肉体を得たからなのか、霊体だった時は真っ白な雪のような肌には、生命を湛えているのかほんのりと桜色に染まっていた。

 それは、一種の陶芸品のようであり、男性だけでなく女性からも羨望の眼差しで見られるのには十分な存在感を放っていた。


「これ大丈夫なのか?」

「問題なかろう。パンドラの精神と魂魄と肉体は、安定しているようだからの」

「そうか。それよりも旦那は、ミイラからも肉体を再生できちまうのは――」

「うむ。自然の摂理に反した行為であるな」

「やっぱり旦那には天罰とかあるのか? よく、驕った人間に天罰があるみたいな話あるよな?」

「ないない。あれと敵対したいと思う神が居たら見てみたいものだ」

「そんなに旦那は――」

「少なくとも、桂木優斗とは妾達は、友好関係を築いておいた方がいいと思うぞ?」


 疲れ切った伊邪那美の言葉が事務所内に響き渡った。


 

 


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